プライオメトリクスの目的
プライオメトリクスの目的はパワーの向上です(パワーについてはコラム#8を参照).すなわち,短時間で大きな力を発揮する能力を高めることをねらっています.サッカー選手は相手選手との競り合い,スプリント,ジャンプ,方向転換動作を頻繁に行うため,その際には大きなパワーが必要になります.プライオメトリクスによってパワーが向上すれば,サッカー選手のパフォーマンス向上に役立つと考えられます.
プライオメトリクスの歴史と語源
プライオメトリクスは1960年代中頃に生まれたトレーニングです.1960年以前もプライオメトリクスはジャンプトレーニングとして用いられていましたが,1960年頃にソ連の走り高跳びと三段跳びの陸上競技選手の成功によって体系的なトレーニングとして世界に広まりました.従って,プライオメトリクスは決して新しいトレーニングというわけでなく,古くからあるトレーニングになります.開発された当初はデプスジャンプ(高い台から飛び降りて即座にジャンプ)など,数少ないジャンプトレーニングのみでしたが,その後に様々なトレーニング種目が開発され,今では多くのプライオメトリクス種目が存在します.
プライオメトリクスの語源には諸説ありますが,その一つにギリシャ語で「長さが伸びること」という説があります(plio=さらに,metric=長さ).何が伸びるかと言いますと,筋や腱になります.すなわち,プライオメトリクスは筋や腱の長さを一旦伸ばす反動動作を用いるトレーニングということになります.トレーニングがプライオメトリクスか否かを区別する絶対的なラインは明確になっていませんが,その語源とねらいから考えると,トレーニングに反動動作があり,パワーを高めるものがプライオメトリクスに該当すると考えられます.
反動動作がパワーを高めることのメカニズムとしてストレッチショートニングサイクル(伸張-短縮サイクル,stretch-shortening cycle: SSC)というものがあります.プライオメトリクスを行う上では,このメカニズムは理解しておくとよいでしょう(コラム#22).
プライオメトリクスのサッカー選手への活用
前述の通り,プライオメトリクスは陸上競技選手を対象に開発されたため,今日の我が国においてプライオメトリクスは陸上競技選手ではすでに一般的なものとなり,また,ハイレベルのパワーが要求されるアメリカンフットボールやラグビー選手においても多く活用されているトレーニングとなります.しかし,日本のサッカー選手にはまだ十分に活用されていないように思います(ジャンプトレーニングを行うところも多くあると思いますが,プライオメトリクスとして,その意味や効果を理解し,計画的,継続的,長期的に取り組めているところは少ないように思います).
近年はサッカー選手を対象としたプライオメトリクスに関するエビデンスが増え(コラム#2など),プライオメトリクスがサッカー選手のジャンプ力やスプリントはもちろんのこと,サッカー選手にとって重要な持久力,アジリティ,キック力も高める可能性があることがわかってきました.プライオメトリクスはサッカー選手の様々な能力を高めることができるトレーニングです.今後,日本サッカー界でも益々活用されるトレーニングとなるでしょう.
文責:松田