#22 サッカー選手のためのプライオメトリクス 基礎理論② ~ストレッチショートニングサイクル(SSC)~

プライオメトリクス
プライオメトリクスによるパワー向上のメカニズム
~ストレッチショートニングサイクル(伸張-短縮サイクル,stretch-shortening cycle: SSC)~

ストレッチショートニングサイクルは英語のstretch-shortening cycleが略されてSSCと言われます.SSCとは筋が伸びてから(伸張性筋活動),その直後に筋が収縮する(短縮性筋活動)一連の動きのことを言います.このSSCを用いることにより,短縮性収縮のみによって発揮される力よりも,短時間で大きな力を発揮できます.

例えば,膝を曲げた状態からジャンプするスクワットジャンプよりも立った状態からしゃがみ込んでジャンプするカウンタームーブメントジャンプのほうが高く跳べます.SSCは筋肉の自然の機能であるため,スポーツ時の動作だけでなく,日常の動作でも利用されています.普段,歩いたり,走ったりする動作でも,接地の際に下腿(ふくらはぎ)の筋が引き延ばされ,そして,蹴り出す際に収縮するというSSCを使っています.また,子どもたちがよく行う縄跳びジャンプも下腿のSSCを使っており,SSCは普段から無意識的に取り入れられているということになります.

2種類のSSC

SSCを細かく分類すると,速いSSCと遅いSSCに分類されます.速いSSCは短い収縮時間と関節の角度変化が少ない動作の際のSSCになり,接地時間0.25秒未満が速いSSCの目安になります.速いSSCの典型的なプライオメトリクスがデプスジャンプになります.一方,遅いSSCは長い筋の収縮時間と大きな関節角度変化を伴う動作の際のSSCになります.遅いSSCの典型的なプライオメトリクスはカウンタームーブメントジャンプ(反動を利用した垂直跳び)になります.プライオメトリクスは種目により速いSSCタイプなのか,遅いSSCタイプなのかは異なります.

SSCにより大きな力を発揮できる理由

SSCにより大きな力を発揮できる主な理由は弾性エネルギーと伸張反射の二つになります

1.弾性エネルギーの利用

筋と腱(筋腱複合体)が引き伸ばされることにより,筋腱に弾性エネルギーが蓄積されます.特に腱はばねの性質があり,弾性エネルギーが多く蓄積されます.そして,筋腱が伸ばされた後に短縮することで,蓄積されたエネルギーが放出され,より大きなパワーが発揮されます.筋と腱のゴムのような性質(主に腱)を利用していると言えます.なお,遅い切り返しよりも速い切り返しの際に腱の長さの変化が大きくなり,腱に弾性エネルギーが蓄積されるため,プライオメトリクスでは切り返し時間(ジャンプでは接地時間)の短縮が重要になります.

2.伸張反射の利用

筋には筋紡錘という器官があり,筋が急に伸びると,筋紡錘が反応します.筋紡錘が反応すると,神経を通して脊髄に情報が伝わり,そして,脊髄から命令が再度筋に伝わり,無意識のうちに筋が収縮します.これを伸張反射と言います.多くの意識的な運動は脳に情報が伝わりますが,この場合は脳まで情報が伝わらないため,一瞬で筋が収縮します.反動動作を使うことにより,筋が一瞬伸び,その際に筋紡錘が働き,次の動きのパワーが増します.伸張反射は急に筋が伸びた時に身体が危ないと察知して起こる反応であるため,身体を守るためのセンサーを利用していると言えます.なお,筋紡錘は筋が伸びる速度が速いほど活性化レベルが大きくなるため,伸張反射の利用という点においても,プライオメトリクスでは切り返し時間の短縮が重要になります.

プライオメトリクスを継続的に

継続的なプライオメトリクスが身体にどのような生理的変化をもたらし,パワーを高めるのかははっきりわかっていません(SSCは反動動作がなぜ効果的であるかの説明ですので,継続的なトレーニングによる生理的な変化を説明したものではありません).あくまで推測ですが,考えられる変化としては,筋の太さの変化(プライオメトリクスは速筋線維を動員しやすいため,主に速筋線維の肥大),腱の太さや内部構造の変化(腱にも大きな負荷がかかるため,筋同様に適応が起こる可能性がある),神経系の改善(使っていない筋線維の動員や神経伝達速度の向上),筋間のコーディネーション向上(異なる筋の連動の向上)があると思います.これらは検証されているわけではないめ,今後の研究が必要となりますが,プライオメトリクスの刺激に対して身体の様々な適応が起こり,パワーが高まると考えられます.

持久力の向上に関しては,パワーとはかけ離れているため,プライオメトリクスによって持久力が向上する理由はイメージしにくいかもしれませんが,おそらく,腱の構造的な変化(腱の太さや内部構造の変化)によって腱のばね機能が高まり,筋収縮のエネルギー消費が少なくなり,省エネで走ることができようになるからではないかと考えられます(一流のマラソン選手のように,ぴょんぴょん跳ねて,省エネで走っている人をイメージしていただくと良いかと思います).

サッカー選手を対象としたプライオメトリクスの研究は介入期間としては2ヵ月程度が多くなっており,長期的・継続的なプライオメトリクスの効果や生理的な変化はわかっていない部分があります.しかし,陸上競技選手がパワーを高めるためにプライオメトリクスを日常的に練習に取り入れ,継続していることを考えると,サッカー選手もプライオメトリクスを単発や短期間のトレーニングとして取り入れるのではなく,長期間継続していくと良いと思われます.

トレーニングの原理の一つである可逆性からわかるように,トレーニングを止めれば,トレーニングで向上した能力は低下します.プライオメトリクスで高めたパワーを維持するためには継続することが大事になります.そして,長期間継続する場合はトレーニングの原則の一つである漸進性に留意する必要があります.トレーニングを継続していくと身体が刺激に慣れてきますので,徐々に負荷を上げ,新たな刺激を加えていき,パワーを最大まで高めることが重要です.

長期間プライオメトリクスを継続した場合は効果が頭打ちになる可能性がありますが,その場合はプライオメトリクス以外のパワートレーニング(クイックリフトなど)を組み入れながら,進めると良いと思います.長期的な視点を持ち,プライオメトリクスをサッカー選手の普段のトレーニングに導入することが重要です.

文責:松田

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