#23 サッカー選手のためのプライオメトリクス 基礎理論③ ~実施時の留意事項~

プライオメトリクス

プライオメトリクスは爆発的パワーを高めるトレーニングであるため,種目によっては身体への負荷が高くなり,傷害の危険性が増します.走り幅跳びの踏み切り時で体重の7倍程度,高く跳ぶ縄跳びで体重の5~7倍の床反力になると言われているため,反動をつけて行うジャンプ系のプライオメトリクスでは着地時の身体への衝撃が大きくなります.

しかし,適切に実施すれば,プライオメトリクスは決して危険なものではありません.その他のトレーニングと同様ですが,プライオメトリクスも安全に行うことが第一です.パフォーマンスを高めるために実施しているのに,不適切な方法でトレーニングを行い,怪我をしてしまっては元も子もありません.安全に行うために,以下の点に留意してください.

年齢を考慮した種目を選ぶ

思春期前のサッカー選手には強度の高いジャンプ(デプスジャンプ,高いところからのジャンプ,ウェイトを持ってジャンプなど)は控えてください.強度の高いジャンプを繰り返し行うと,骨の成長が阻害されるなど,様々な傷害の可能性があります.強度の低い種目(スキップ,アンクルホップなど)であれば,思春期前の子どもたちが普段行っている運動に近いため,適切に実施すれば,思春期前からでも問題ありません.選手の年齢により取り入れる種目を考慮してください.

筋力レベルを高める

筋力が十分でない場合,身体への衝撃に耐えられず,傷害を引き起こす可能性があります.筋力が十分でない人は強度の高い種目は避けてください.また,筋力が十分でないと,着地時の切り返しの時間が長くなり,プライオメトリクスの効果は著しく低下します.

筋力レベルの一つの目安としては,高強度のジャンプトレーニングを行う場合にはスクワットの最大挙上重量は体重の1.5倍,上半身のプライオメトリクスを行う場合にはベンチプレスの最大挙上重量は体重の1.0倍必要になります.

パワー(=力×速度)を高めるためには筋力が必要になりますので,思春期以降のサッカー選手は前述の目安はクリアーできるように筋力を高めていきましょう.基本的に,筋力レベルについては,過大評価をしないほうがよいと言えます.過大評価により傷害やドロップアウトの可能性も高まるため,筋力レベルは低めに見積もるほうが安全です.

先ほどのスクワットとベンチプラスの目安はあくまで高強度のプライオメトリクスを行う際のものです.低強度や中強度のプライオメトリクスであれば,先ほどの目安に達していなくても実施可能です.各自の筋力に見合ったプログラム(種目,回数,セット数等)を実施してください.

個人差を考慮する

サッカー選手には身長,体重,筋力などの身体特性やこれまでの運動経験に個人差があります.個人差を十分考慮し,適切なプログラムを導入しましょう.チームでプライオメトリクスを取り入れる場合は難しい点もありますが,できるだけ個人にあわせた内容に設定するのがよいでしょう.個人が難しければ,グループごとに強度を設定し,グループごとに行うのが良いでしょう.同じ内容を行っても,ある選手にとっては適切な強度で効果があったとしても,ある選手にとっては強度が不適切で効果がないこともあります.効果が少ない練習をするのは非効率ですので,個人差をしっかりと考慮しましょう.

疲労のない状態で実施する

プライオメトリクスは全力で実施することが重要であるため,疲労のない状態で行うのが基本です.疲労がある状態では全力が出せないためにトレーニング効果が得られず,また,傷害の危険性も増します.サッカーのトレーニングと同じ日に行うのであれば,できるだけ疲労のない最初に行うのがよいでしょう.特に,長距離走や筋力トレーニング後は避けてください(筋力トレーニング直後に筋力トレーニングと動作が類似したプライオメトリクスを行うコンプレックストレーニングがありますが,その効果は十分検討されていないため,現段階ではお勧めしません).その他のトレーニングと上手く調整し,疲労のない状態で行うようにしてください.

適切な場所で実施する

傷害を予防するために,ジャンプトレーニングでは着地面に注意してください.適度な衝撃吸収性のある着地面で行いましょう.芝生や土のグラウンド,体育館の木製フロア,ゴム製マットが適しています.コンクリート,タイル,固い木の床は衝撃が強くなりすぎるため,避けてください.厚すぎる体操マットも反動を上手く使えず,切り返し時間も長くなるため,適していません.

適切なシューズで実施する

シューズは適度な衝撃吸収性のあるシューズにしましょう.サッカースパイクは衝撃吸収性が良いとは言えず,着地衝撃が大きくなるため,お勧めできません.サッカー選手には横方向のプライオメトリクスも推奨されるため,横方向の動きに弱いランニング用シューズも避けた方がよいでしょう.ランニング用シューズの使用は足首の傷害の危険性を高めます.屋外であればトレーニングシューズ,体育館であればフットサルシューズが良いでしょう.

体重が重い人は種目を考慮する 

サッカー選手には多くいませんが,体重100㎏を超えるような選手は高強度のプライオメトリクスは避けたほうがよいでしょう.体重が重い人はジャンプトレーニング時の着地衝撃が大きくなり,繰り返しトレーニングをすると関節の傷害の可能性が高まります.体重に考慮し,種目を選んでください.

文責:松田

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