2021年に報告された研究では,男子プロサッカー選手の怪我は全体的には減少傾向であると報告されています(コラム#20).しかし,その減少傾向の中身は靭帯の怪我であり,筋肉系の怪我は依然として減っていない状況です.
それでは,そもそもサッカー選手の筋肉系の怪我の実態はどのようになっているのでしょうか.
2000名を超えるヨーロッパのプロサッカー選手を対象に,筋肉系の怪我の実態を調査した大規模な疫学研究がありますので,今回はその内容について紹介します.
文献
Epidemiology of muscle injuries in professional football (soccer), Am J Sports Med, 39(6):1226-1232, 2011.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21335353/
研究内容
この研究では男子プロサッカー選手の筋肉系の怪我の実態を調査しています.
対象はヨーロッパ51のチーム,2299名の男性プロサッカー選手です(UEFAチャンピオンズリーグ参加のチーム,スウェーデンのトップリーグのチーム,ヨーロッパの各国上位2部のチーム).追跡期間はチームにより異なりますが,2001年から2009年までの期間で数年追跡しています.
筋肉系の怪我の定義は「トレーニングや試合に完全に参加できない,外傷性やオーバーユースの筋肉系の怪我(タイムロスのある怪我)」となっています(筋断裂,筋硬直やこむら返りは含み,打撲,血腫,腱断裂,慢性的な腱障害は含まない).
主な結果は以下の通りです. 【怪我の実態】 ・2908件の筋肉系の怪我が記録された. ・一人の選手は1シーズンで平均0.6回,筋肉系の怪我をする. ・筋肉系の怪我は全体の怪我の31%を占める(2908件/全9275件). 【怪我でのタイムロス】 ・各シーズンで,37%の選手が筋肉系の怪我でトレーニングや試合の機会を失う. ・怪我の選手の51%が1週間以上の休み,11%が28日以上の休みを伴う. ・大腿四頭筋がハムストリングと内転筋より長い休みを伴う. 【怪我の部位】 ・筋肉系の怪我の92%は下肢の怪我であり,次の4部位が占める. ・ハムストリング37%,内転筋23%,大腿四頭筋19%,腓腹筋13%. ・大腿四頭筋は60%が利き脚.他の筋では利き脚と非利き脚の差は明確でない. ・股関節の怪我はオーバーユースが多い(42%).ハムストリング30%,大腿四頭筋26%,腓腹筋28%. 【怪我の発生】 ・怪我の発生率は試合中がトレーニング中の6倍高い. ・筋肉系の怪我は非接触での怪我がほとんど(92%以上). 【再発の怪我】 ・筋肉系の怪我の16%は再発の怪我. ・再発の怪我は初回の怪我より長い休みの期間が必要となる. ・再発の怪我の割合は4部位(ハムストリング,大腿四頭筋,内転筋,腓腹筋)で差はない. 【怪我と年齢】 ・筋肉系の怪我は加齢とともに増える.しかし,これは腓腹筋のみ.ハムストリング,大腿四頭筋,股関節の怪我は加齢による違いはない.
まとめ
・大規模な疫学研究により,サッカー選手の筋肉系の怪我の実態が明らかになっています.
・メインの結果としては,筋肉系の怪我が全体の1/3を占めること,下肢4部位の筋(ハムストリング,大腿四頭筋,内転筋,腓腹筋)で筋肉系の怪我の92%を占めることになります.
・その他,様々な点から分析されていますので,上記の結果を参考にしてください.
・なお,怪我の定義は研究により異なりますので,怪我に関する研究を読む際は定義に気を付ける必要があります.上記の結果についても定義を踏まえて,解釈する必要があります.
文責:松田