プライオメトリクスのプログラムを作成する際には,種目,強度,回数,セット数,休憩時間,頻度,継続期間等を決めなければなりません.唯一絶対のプログラムは存在せず,プログラムの要素を適切に組み合わせて,プログラムを作成する必要があります.
特に難しいのは種目の選択になります.プライオメトリクスが開発された当時(1960年頃)は高い台から飛び降りてからジャンプを行うデプスジャンプがメインでしたが,今では様々な種類のプライオメトリクスが開発されています.選択肢が多いため,どれを選択したらよいかに悩むこともあると思いますが,以下に示した種目選択の考え方を踏まえ,そして選手のプロフィールに合わせてプログラムを作成してください.選手のプロフィールには,年齢,体重,競技レベル,筋力・体力レベル,トレーニング経験,怪我の状態,精神的な成熟度,性格特性などが含まれます.
種目
プライオメトリクスの種目は,下半身は主にジャンプトレーニング,上半身は主にメディシンボールを使用したトレーニングになります.1回のトレーニングにおける種目の数は初心者では4~5種目,経験者では6~7種目が推奨されます.種目については,基本は低強度の種目から行い,プライオメトリクスに慣れてきたら,徐々に強度の高い種目に変えていきましょう.
そして,より細かく種目選択を考える際には,どのような動作パフォーマンスを向上させたいかを考える必要があります.スプリントを向上させたいのか,ジャンプ力を向上させたいのか,切り返しを速くしたいのかなどです.
また,細かく見れば,ジャンプと言っても,沈み込みの大きい,接地時間の長いジャンプを向上させたいのか,沈み込みが小さく,接地時間が短いジャンプを向上させたいのか,などによっても種目の選択は変わってきます.向上させたい動作と関連の深い種目を選択するのがよいでしょう.競技動作との関連を考慮する場合にポイントとするのは以下の三つになります.
①関節角度
向上させたい動作がどのような関節角度で行われているかを確認します.例えば,ゴール前でセンタリングに合わせて,一瞬でジャンプする場合は,沈み込んで,大きなジャンプ動作を行うことができません.少しの沈み込みで高くジャンプする必要があります.そのような時のジャンプ力を高めたいのであれば,関節角度変化の小さいジャンプ種目を採用するとよいでしょう(速いSSCタイプ).
一方,上空に上がったボールをヘディングする際はある程度沈みこむことができます.その際のジャンプ力を高める場合は沈み込みを使った関節角度変化の大きいジャンプトレーニングを行うとよいでしょう(遅いSSCタイプ).
スプリントにおいては,スタートダッシュから加速局面では足関節,膝関節,股関節とも大きな関節角度変化を伴いますが,中間疾走になれば,足関節や膝関節の曲げ伸ばしは少なくなり,股関節の曲げ伸ばしの要因が大きくなります.スタートダッシュを向上させたいのか,中間疾走を向上させたいのか,向上させたい動作により種目を変える必要があります.
②力発揮の方向
向上させたい動作がどのような方向に力が発揮されているか,重心がどの方向に移動しているかを考える必要があります.例えば,スプリントであれば,水平方向の動きのため,水平方向の種目を選択するのが良いですし,上方へのジャンプ力を高めたいのであれば,垂直方向の種目を選択するのが良いでしょう.サッカー選手は試合中,横方向への方向転換も多くあります.横方向への方向転換能力を高めたいのであれば,水平方向や垂直方向の種目だけでなく,横方向の種目を選択する必要があります.
③切り返し時間
向上させたい動作の切り返しの時間を考える必要があります.例えば,上方に大きくジャンプするのであれば,切り返し時間が長いため,切り返し時間の長い種目を選択するとよいでしょう(遅いSSCタイプ).一方,ゴール前でセンタリングに合わせて,一瞬でジャンプする場合は切り返し時間が長く取れません.このような動作を高めたいのであれば,切り返し時間が短い種目を選択すると良いでしょう(速いSSCタイプ).
強度
プライオメトリクスでは,正しい動作で行うことが大事であるため,フォームを崩さずに10~15回反復できる強度に設定するのが基本です.そして,競技場面で加わる強度よりも少し高めに設定するのが良いでしょう.プライオメトリクスは種目により強度が異なります.そして,同じ種目でも様々な方法で強度を変化させることができます.強度の変え方については下表を参考にしてください.なお,プライオメトリクスでは,選手の筋力が低ければ,相対的な強度は高くなります.また,ジャンプトレーニングにおいては,選手の体重が重いほど相対的な強度が高くなります.
量
1種目につき,反復回数は5~10回,セット数は2~3セットが目安になります.トレーニング全体の量は接地回数で基準が設けられています.
初心者:1回のトレーニングで80~100回程度の着地回数(低~中強度のエクササイズ)
中級者:1回のトレーニングで100~120回程度の着地回数
上級者:1回のトレーニングで120~140回程度の着地回数
セット間の休息時間
プライオメトリクスは正しい動作で行う必要があるため,セット間の休息を十分に確保し,疲労が次のセットに影響しないようにします.休息時間は1セットの運動時間の4~10倍程度であり,低~中強度の場合は1~2分,高強度の場合は2~3分が目安になります.
頻度
回復には48~72時間程度必要になるため,内容にもよりますが,基本は週に2~3回が目安になります.上半身と下半身を分けて別日に行えば,合計週4回程度実施することも可能です.
文責:松田