ハードな試合やトレーニングを行うサッカー選手が良いコンディションを保つには睡眠が非常に重要です.普段であれば,各自の家で快適に寝れることが多いと思いますが,サッカー選手の場合,遠征や合宿などがあり,チームメートと同じ部屋で泊まることもあると思います.場合によっては,大部屋ということもあるでしょう.特に,若いサッカー選手の場合は二人以上で同じ部屋に泊まるということも多々あるのではないでしょうか.
それでは若いサッカー選手がシングル(一人部屋)で泊まる場合とツイン(二人部屋)で泊まる場合では,睡眠の量や質は変わるのでしょうか.
サッカー選手の合宿中(トレーニングキャンプ)の睡眠について,シングルとツインで比較したユニークな研究が発表されましたので,紹介します.
文献
Comparing Sleep in Shared and Individual Rooms during a Training Camp in Elite Youth Soccer Player’s: A Short Report,J Athl Train, 5, 2022.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35380678/
研究内容
若いエリートサッカー選手を対象に,合宿中のシングル利用あるいはツイン利用といった部屋の違いが睡眠に及ぼす影響を検討しています.
被験者はU-19のナショナルチームに入っている男子エリートサッカー選手13人です(平均17.9歳).
被験者はシングルで泊まる合宿とツインで泊まる合宿に参加しました(合宿は20日間空けて,行われました).二つの合宿の日々のスケジュールは同じになっています.
データは合宿中の連続8日間取得されました.
睡眠については,睡眠時間,睡眠潜時(覚醒状態から眠りに入るまでの所要時間),睡眠効率(就床時間に対する睡眠時間の割合),心拍変動(自律神経機能を評価),および心拍数により評価されました.また,被験者は各自の睡眠を7段階で主観的評価しました(1:非常に良い~7:非常に悪い).
トレーニングと試合の負荷については,セッションRPE(主観的運動強度),トレーニングと試合の時間,総移動距離,ハイスピードでの移動距離により評価されました.
主な結果は以下の通りです. ※不等号は統計的有意差あり.数値は平均値
睡眠の量:シングル(7時間35分)>ツイン(6時間7分) 睡眠効率:シングル(88%)>ツイン(75%) 睡眠潜時:シングル(7分)<ツイン(10分) ※低値のほうが良い 主観的な睡眠の質:シングル(1.7)>ツイン(3.7) ※低値のほうが良い 心拍変動,心拍数,セッションRPE,トレーニングと試合の時間,総移動距離,ハイスピードでの移動距離に群間差はありませんでした. 結論としては,「合宿中の睡眠は部屋の違い(シングルもしくはツイン)の影響を受ける」と述べられています.
まとめ
・一人部屋のほうが二人部屋よりも88分睡眠が長く,睡眠効率も約12%良くなっています.
・睡眠潜時や主観的な評価も一人部屋のほうが良いことから,全体としては,一人部屋が二人部屋よりも睡眠の量と質が良いことが明らかになっています.
・現場においても参考になる研究と思いますので,合宿や遠征の際に活用していただければと思います(実際は,一人部屋を確保するというのが難しい状況も多いと思いますが).
・睡眠は様々な要因により変化を受けますので,実験設定が非常に難しくなります.特に,今回は実際の現場での実験であったため,実験条件の統制が難しかったと思います.論文にも気温,湿度,昼寝,就寝前のスクリーンタイムは調整できておらず,研究の限界であると書かれています.これらの研究の限界も踏まえたうえで,研究結果を解釈したほうが良いと思います.