ほとんどのサッカー選手はウォーミングアップの重要性を認識し,日頃からウォーミングアップを行っていると思います.また,試合前もウォーミングアップを行うのが通常のことと思います.
サッカーの試合前については,ウォーミングアップを行った後に,最終ミーテングや着替えなどがあるため,控室に入ることが多いと思います.従って,ウォーミングアップを行ってから,試合までに少し間が空きます.この間が空くことによって,ウォーミングアップで高めた筋温,体温,脳神経系の活性化が低下し,ウォーミングアップの効果が薄れてしまう可能性も考えられますが,果たして,どうなのでしょうか.
このような視点からウォーミングアップの効果を検討した研究が最近発表されましたので,紹介します.
文献
Cognitive and Physical Effects of Warm-Up on Young Soccer Players, Motor Control, 29, 1-19, 2022.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35349981/
研究内容
若いサッカー選手を対象に,身体パフォーマンスと認知パフォーマンスについて,ウォーミングアップ直後に測定した場合と,ウォーミングアップ後に少し間を置いて測定した場合(試合前を想定)とで比較しています.
被験者はスペインの若いアマチュアサッカー選手14人です(平均11.6歳).
身体パフォーマンスの評価には30mスプリントテスト,カウンタームーブメントジャンプ(CMJ)が測定されました.
認知パフォーマンスの評価には反応時間検査(PVT検査:psychomotor vigilance task)が測定され,反応時間が評価されました(画面上に数字が表示され,それに反応し,ボタンを押す作業を10分間行う.持続的な注意が必要とされるため,疲労や覚醒状態を評価するテスト.疲労があったり,眠気があると反応が悪くなる).
条件は以下の三つです.
①通常条件(BLC: basic level condition)
ウォーミングアップ前にPVT,ウォーミングアップ後にスプリントとCMJの慣れの時間を入れてから,スプリントとCMJを測定.
※通常条件のスプリントとCMJ測定については,ウォーミングアップ条件とどのように異なっているかは不明.少し不可解な部分があります.
②ウォーミングアップ条件(WC:warm-up condition)
ウォーミングアップ直後にスプリント,CMJ,PVTを測定.
③ウォーミングアップ後に休息条件(WWC:without warm-up condition)
ウォーミングアップ後に控室に移動し,15分間のミーティングを座って静かに聞いてから,スプリント,CMJ,PVTを測定.
結果は以下の通りです. ※不等号は統計的有意差あり.数値は平均値
CMJ高: WC(20.2cm)> BLC (18.7cm), WWC (18.5cm) 30mスプリント:WC(5.8秒)< BLC (6.2秒), WWC (6.2秒) PVT: WC(369.6ミリ秒)< BLC (415.6ミリ秒), WWC (437.7ミリ秒) ※低値のほうが反応が良いことを示す.
CMJ,スプリント,PVTのいずれも,WC条件がWWC条件より良い値になっています.
結論としては,「ウォーミングアップ後に15分の休みを入れることにより,若いサッカー選手の身体および認知パフォーマンスが低下する」と述べられています.
まとめ
・ウォーミングアップ直後は身体および認知パフォーマンスが向上しますが,その後15分空けると向上した身体および認知パフォーマンスが低下するということが明らかになっています.
・この結果を試合場面に応用して考えると,まずは,ウォーミングアップから試合までの間は空けすぎないほうがよいと考えられます.また,どうしても試合前のミーティング等が長くなる場合には,試合前に再度のウォーミングアップ(re-warm-up)を行うと良いと思われます(現在でも試合前に簡単なダッシュやジャンプを行っている選手が多いですが,この行動はまさしくre-warm-upに当たり,適切な行動と考えられます).
文責:松田