早生まれのJリーガーが少ないということはご存じでしょうか.
Jリーガーには早生まれの選手が少ないことが報告されており(内山と丸山,1996),また,海外のプロサッカー選手を対象とした多くの研究でも,プロサッカー選手の割合は誕生月により異なることが明らかになっています(日本では4月1日が切り替え日(cut-off-date)ですので,早生まれの1月~3月生まれのJリーガーが少なくなっています.国により切り替え日は異なり,切り替え日から誕生月が離れるほどプロサッカー選手の割合は減っていきます).
誕生月の違いは,プロサッカー選手の割合だけでなく,学力や体力,性格などにも影響するという報告もあります.このような相対的な生まれの早さ/遅さがもたらす影響のことを相対年齢効果(Relative Age Effect: RAE)と言います.
プロサッカー選手の相対年齢効果については,これまでに様々な国で調べられていますが,ワールドカップ出場選手を対象とした分析は行われていませんでした.
ワールドカップ出場者を対象に,長期間のデータを用い,相対年齢効果を分析した研究が最近発表されましたので,紹介します.
文献
Variations in the relative age effect with age and sex, and over time-Elite-level data from international soccer world cups, PLoS One, 17(4):e0264813, 2022.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35482636/
研究内容
1997年~2019年のU17, U20ワールドカップと2006年~2019年のワールドカップに出場した選手を対象に相対年齢効果を調べています(U17,U20ワールドカップは2年毎に開催).
U17女子は2008年~2018年のデータ,U20女子は2002年~2018年のデータを利用しています.
47の大会,合計20401人のサッカー選手が対象となりました.
誕生日を「Q1:1月~3月,Q2:4月~6月,Q3:7月~9月,Q4:10月~12月」の4つに分けています.
主な結果は以下の通りです.
※有意なRAE有り:Q1~Q4で選手数の割合に統計的有意差がある.
U-17 男子(1997年~2019年,2年毎開催) ・1997年~2019年まで,有意なRAE有り. ・1997年~2015年にかけて効果量(差の大きさを示す指標)は大きくなっている. ・2017年,2019年は効果量は少し小さくなっている. ・2013年の効果量が最も大きい.この時,Q1が46.3%で,Q4は12.5%.Q1とQ2で71.5%を占める. U20男子(1997年~2019年,2年毎開催) ・1997年~2019年まで,有意なRAE有り ・効果量はU17より小さい. ・効果量は年々大きくなっている傾向. ・2019年の効果量が最も大きい.この時,Q1が38.1%で,Q4は14.5%.Q1とQ2で64.3%を占める. ワールドカップ男子(2006年~2018年) ・2014年まで,RAEなし. ・2014年,2018年に有意なRAE有り. ・2018年の効果量は2014年より大きい値. ・効果量は徐々に大きくなっている傾向. U-17 女子(2008年~2018年,2年毎開催) ・2008年~2012年まで,RAEなし. ・2014年~2018年まで,有意なRAE有り. ・U17女子のRAEの効果量はU17男子より小さい値. U-20 女子(2002年~2018年,2年毎開催) ・2018年で初めて,有意なRAE有り. ワールドカップ女子(2007年~2019年) ・RAEなし.
まとめ
・若い年代ほどRAEが明確に表れていること,男子が女子よりRAEの傾向が強いこと,ワールドカップにおけるRAEの傾向は年々強くなっていることが明らかになっています.
・フィジカルの要求度が高まっていること,トップクラブを中心に多くのチームがスカウティングや選抜を若い年代から盛んに行っていること等が影響し,RAEが明確になってきている可能性も考えられます.
・女子も競争が激しくなってきていること等が影響し,RAEの傾向が明確になってきているのかもしれません.
文責:松田