これまでのコラムにてゲーム分析に関するエビデンスを幾つか紹介してきました(#28ではプレミアリーグ,#29ではラ・リーガ,#30ではチャンピオンズリーグ).
今回は,ワールドカップの決勝について,長年のデータを分析した2014年の報告がありますので,その論文を紹介します.
文献
Evolution of World Cup soccer final games 1966-2010: game structure, speed and play patterns, J Sci Med Sport, 17(2):223-228, 2014.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23643671/
研究内容
1966年~2010年の12回のワールドカップ決勝(12試合)をビデオ映像から分析しています(ソフトウェアを利用).
分析項目はプレー時間,ストップ時間,ゲームがストップした種類(スローイン,コーナーキック等)と長さ,ボールスピード,選手の密集度,パスの割合です.
主な結果は以下の通りです. ※増加・減少は統計的有意.左の数値は1966年,右の数値は2010年
【増加】 試合の合計ストップ時間 ストップ時間(7秒→17秒) ※プレーがストップした際の平均時間と思われます. 怪我でのストップ回数 スローインの時間(8秒→12秒) コーナーキックの時間(19秒→26秒) ゴールキックの時間(16秒→24秒) フリーキックの時間(13秒→20秒) シュートのフリーキックの時間(38秒→63秒) ボールスピード(8.0m/s→9.2m/s) ※15%増加 選手の密集度 ※密集度:15秒ごとのボール周辺5m以内の選手の数 パスの割合(11.3回/min→15.3回/min) ※35%増加 【減少】 プレー時間の割合(70.1%→51.8%) プレー時間(29秒→25秒) ※途切れるまでの1プレーの平均時間と思われます(詳細不明). 【変化なし】 試合のストップ回数 選手交代にかかる時間 怪我でのストップ時間 ※各項目の信頼性(検者内および検者間信頼性)が検討された後に分析が行わています.
まとめ
・ワールドカップ決勝の試合内容は44年間で様々な点で変化していることが明らかになっています.
・全体的には,プレー時間の減少,ストップ時間の増加が明確になっており,また,スピーディなゲーム展開(ボールスピードの増加)や守備戦術の高度化(選手の密集度の増加)がうかがえます.
・プレー時間とストップ時間の割合については,1966年では「4:1」であったのが,2010年には「1.5:1」に変わっています.ストップ時間の増加は選手が試合中に休める時間の増加を意味します.サッカー選手のプレーは年々高強度となっていますが,この背景にはストップ時間の増加が関係している可能性も考えられます.
・ワールドカップ決勝は1試合だけですので,データ数は少ないですが,長年分析したものですので,非常に貴重と思います.また,昔の映像を見ればサッカーが進化していることは一目瞭然とは思いますが,実際にデータとして示されることに意義があると思います.
・過去のデータは未来を予想するうえでも重要ですので,未来のサッカーを想像する際に役立つ情報と思います.今後のサッカーはどのように進化していくのでしょうか.
文責:松田