若いサッカー選手の場合,成熟の早い選手が試合出場時間が長いという報告もありますが(Goto et al., 2019),試合出場時間に関係する要因について,様々な要因を用いて検討した研究は多くありません.
最近,若いエリートサッカー選手を対象に,試合出場時間と成熟度,体力,ホルモンレベルとの関係を検討した研究が公表されましたので,その論文を紹介いたします.
文献
Associations between match participation, maturation, physical fitness, and hormonal levels in elite male soccer player U15: a prospective study with observational cohort, BMC Pediatr, 11;22(1):196, 2022.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35410178/
研究内容
試合出場時間と成熟度,体力,ホルモンレベルとの関係を検討しています.
U-15エリートサッカー選手26人が被験者となっています(平均14.6歳).
試合出場時間との関係を見ている項目は以下の通りです.
・骨年齢(生物学的年齢:生物学的な成熟度)
・Maturity offset(MO: 現在の年齢が最大身長発育速度(PHV)の年齢から何年ずれているかを示す.+1であれPHVよりも1年後であることを意味する.身長,体重,座高,脚長から算出される)
・サッカーのトレーニング歴
・VO2max(最大酸素摂取量:持久力の指標.この研究ではYOYOテストから推定)
・Fatigue index(無酸素パワーの指標.繰り返しスプリントテストのベストとワーストの差)
・CMJ(カウンタームーブメントジャンプ:爆発的パワーの指標)
・成長ホルモンレベル
・IGF1レベル(インスリン様成長因子.成長ホルモンに反応して肝臓から分泌されるホルモン.細胞増殖(骨や筋肉を作る)の作用を持つ)
試合出場時間との関係は以下の通りです.
相関係数 | |
骨年齢 | 0.18 |
MO | 0.05 |
サッカーのトレーニング歴 | 0.37 |
VO2max | 0.44* |
Fatigue index | -0.54* |
CMJ | 0.42* |
成長ホルモンレベル | 0.38 |
IGF1レベル | 0.32 |
試合出場時間はVO2max,Fatigue index,CMJと中程度の有意な相関が認められています.
項目間の相関を見た結果では,成長ホルモンレベルとVO2max(r=0.57)およびCMJ(r=0.55)間,VO2maxとCMJ間に有意な相関が認められています(r=0.51).
なお,上記8項目すべてと試合出場時間の関係を検討するための重回帰分析も行われており,その結果,上記8項目で試合出場時間の62%を説明できることも明らかになっています.
まとめ
・成熟度(骨年齢およびMO)およびホルモンレベルは試合出場時間と有意な関係ではありませんでした.MOの平均が1.1年であり,ほとんどの者がPHVを過ぎていたことが影響しているかもしれません.
・成長ホルモンについてはVO2maxおよびCMJと関係があり,試合出場時間との関係も相関係数が0.3以上でしたので,被験者数が増えれば,試合出場時間との関係は見られるかもしれません.今後の更なる研究が必要と思われます.
・試合出場時間と関係が認められたのは体力で,項目ではVO2max,Fatigue index,CMJでした.この年代では,持久力,無酸素パワー,爆発的パワーと言った体力要素が成熟度やホルモンレベルよりも試合出場時間に関与すると考えられます.トレーニングを計画する際や体力評価を行う際には,この結果を踏まえておくと良いと思います.
・被験者数が少ないこと,(おそらく)1チームの分析であること,測定項目が不十分であることなど,研究の限界が幾つかあるように思いますので,本テーマについては,その他の研究も見ていく必要があると思います.
文責:松田