子どもたちの中にはプロのサッカー選手を目指していたり,ハイレベルなチームでプレーすることを望んでいたりする選手も多いと思います.しかし,当然ではありますが,チームにも受け入れ人数の上限がありますので,全員がハイレベルなチームでプレーを続けられるわけでなく,実力が足りない場合には途中でドロップアウトということになってしまいます.
それでは,若いサッカー選手がハイレベルのチームからドロップアウトする要因は何でしょうか.何が足りないとドロップアウトになってしまうのでしょうか.
若いサッカー選手のドロップアウトについて,形態,成熟度,体力との関係を検討した研究がありますので,その論文を紹介します.
文献
A retrospective study on anthropometrical, physical fitness, and motor coordination characteristics that influence dropout, contract status, and first-team playing time in high-level soccer players aged eight to eighteen years, J Strength Cond Res, 29(6):1692-1704, 2015.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26010800/
研究内容
対象者はベルギーのプロサッカークラブのユースチームに所属のサッカー選手388名です(平均年齢:8.6歳~16.6歳).
2007年~2012年に測定が行われています.
被験者はクラブ群(n=247,平均12.2歳)とドロップアウト群(n=141,平均12.3歳)の2群に分けられました.
クラブ群:(2013/2014シーズンの最初に)プロサッカークラブのユースチームでプレーを継続している選手 ※詳細は不明ですが,「ドロップアウトせずに続けていた選手」という設定です.
ドロップアウト群:最初の測定から2年以内に低いレベルのチームに移ったか,あるいはサッカーを辞めた選手
結果は下表の通りです.
蛍光マーカー箇所は有意差が認められています.黄色はクラブ群が大きい,あるいは,優れていることを示しています.青色はドロップアウト群が大きいことを示しています.
MO(Maturity offset, 成熟度):現在の年齢が最大身長発育速度(PHV)の年齢から何年ずれているかを示します.+1であれPHVよりも1年後であることを意味します.身長,体重,座高,脚長から算出されます.
運動能力テスト:Körperkoordinations test Für Kinderというテストを用いています.サッカー特有でなく,一般的な運動能力(コーディネーション能力)を評価しています.
アジリティ:ボールドリブルのテストをドリブルなしで行い,アジリティを評価しています.
D-O:ドロップアウト群を示しています.
年齢,MO(成熟度),形態の項目では,クラブ群とドロップアウト群で有意差があるのは数か所です.
運動能力テスト(左右ジャンプ,左右移動),YOYOテスト,スプリントは多くの年代でクラブ群とドロップアウト群で有意な差が見られています.
アジリティ,ボールドリブル,立ち幅跳び,CMJでも有意差がある箇所が幾つかあります.
まとめ
・クラブ群とドロップアウト群の有意差が比較的はっきりと見られるのは,運動能力テスト(左右ジャンプ,左右移動),YOYOテスト,スプリントとなっています.
・成熟度および形態においても有意な群間差は散見されますが,はっきりとした傾向はないようです.
・ハイレベルなユースチームでは,形態や成熟度よりも,一般的な運動能力(コーディネーション能力),間欠的持久力,スプリントといった体力的な要素がドロップアウトに関係すると考えられます.
・アジリティ,ボールドリブル,立ち幅跳び,CMJでも有意な群間差は散見されますが,それほど多くなく,一貫した傾向はみられません.
・(参考までにですが)U11以下では運動能力テスト,アジリティ,ボールドリブル,5mスプリントに群間差がありますので,巧緻性やアジリティ的な要素が重視されているのかもしれません.その後,U12以降になると,YOYOテストに群間差が見られるようになり,持久性も重視されるようになり,U14 ・U15では立ち幅跳びとCMJにも群間差が見られるため,この年代ではパワーの要素が重視されているのかもしれません.
・年代や国によってもドロップアウトの要因は異なると思いますので,様々な研究を総合的に見ていく必要があると思います.
文責:松田