若いエリートサッカー選手の試合出場時間と成熟度,体力,ホルモンレベルとの関係を検討した研究が公表されましたので,その論文を紹介いたします.
コラム#37の論文と同じ研究者が発表した論文であり,検討内容はほぼ同じです.#37ではU-15の選手を対象としていますが,今回の研究ではU-16の選手を対象としています.
文献
The influence of maturation, fitness, and hormonal indices on minutes played in elite youth soccer players: a cross-sectional study, BMC Sports Sci Med Rehabil, 17;14(1):89, 2022.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35581598/
研究内容
この研究では,試合出場時間と成熟度,体力,ホルモンレベルとの関係を検討しています.
イランのU-16エリートサッカー選手24人が被験者となっています(平均15.6歳).
(おそらくですが)各選手の1シーズンの試合出場時間を分析しています(公式戦21試合と非公式戦12試合). ※試合出場時間の分析方法の詳細が不明なため,この点の信頼性は不明です.
試合出場時間との関係を見ている項目は以下の通りです.
・骨年齢(生物学的年齢:生物学的な成熟度)
・Maturity offset(MO: 現在の年齢が最大身長発育速度(PHV)の年齢から何年ずれているかを示す.+1であれPHVよりも1年後であることを意味する.身長,体重,座高,脚長から算出される)
・サッカーのトレーニング歴
・VO2max(最大酸素摂取量:持久力の指標.この研究ではYOYOテストから推定)
・Fatigue index(無酸素パワーの指標.繰り返しスプリントテストのベストとワーストの差)
・CMJ(カウンタームーブメントジャンプ:爆発的パワーの指標)
・成長ホルモンレベル
・IGF1レベル(インスリン様成長因子.成長ホルモンに反応して肝臓から分泌されるホルモン.細胞増殖(骨や筋肉を作る)の作用を持つ)
試合出場時間との関係は以下の通りです.
相関係数 | |
骨年齢 | -0.40 |
MO | -0.46* |
サッカーのトレーニング歴 | 0.43 |
VO2max | 0.75* |
Fatigue index | -0.16 |
CMJ | 0.47* |
成長ホルモンレベル | 0.47* |
IGF1レベル | 0.47* |
試合出場時間はMO,VO2max,CMJ,成長ホルモンレベル,IGF1レベルと有意な相関が認められています.
なお,上記8項目すべてと試合出場時間の関係を検討するための重回帰分析も行われており,その結果,上記8項目で試合出場時間の76%を説明できることが明らかになっています.
また,8項目の中でも,VO2maxと成長ホルモンの2項目が試合出場時間に大きく関与し,この2項目で試合出場時間の63%を説明できることも明らかになっています.
まとめ
・試合出場時間は成熟度(MO),体力(VO2max,CMJ),ホルモンレベル(成長ホルモン,IGF1)と有意な関係が認められました.
・同じ研究者が発表し,U-15を対象とした研究とは結果が異なっています(コラム#37).U-15の研究では,試合出場時間はVO2max,Fatigue index,CMJと有意な関係が見られています.
・今回MOが負の相関であること,Fatigue indexについてはU15とU16で相関係数が大きく異なること(U-16: r=-0.16,U-15: r=-0.54)については,解釈が非常に困難です(論文にも特に説明がありません).1チームだけの分析であること,MOおよびFatigue indexについては測定の精度・妥当性に問題があるかもしれないこと,試合出場時間のデータの信頼性が低い可能性があること等が影響しているかもしれません.
・U-15,U-16で共通し,試合出場時間と関係しているのはVO2max(YOYOテストから推定),CMJですので,この年代では間欠的な持久力および爆発的パワーが試合出場時間を左右する重要な能力の可能性が高いと思われます.
文責:松田