PAPとは「postactivation potentiation」のことで,日本語では「活動後増強」と言われます.
事前に課題の動作よりも強度の高い運動を行うことにより,その数分後の運動パフォーマンス(パワー)が向上することをPAPと言います.PAPは1990年代頃から研究が始められ,初期の頃は,ウォーミングアップに筋力トレーニングを加えた効果が示されました.その後,筋力トレーニングだけでなく,プライオメトリクスやスプリントもPAPを発現させることが明らかになっています.
ただ,PAPはどのような方法でも発現するというわけではなく,選手の体力レベルや事前の運動の内容(セット数,強度,休息時間)により影響を受けます.体力のない人に事前にハードな内容の運動をしても,疲労がたまるだけで,パフォーマンスが上がらないことは容易に想像がつくと思います.すなわち,事前に行う運動の内容が非常に重要になります.
PAPが検討され始めて何十年と経っていますが,プロサッカー選手を対象とした研究はほとんどありませんでした.最近,プロサッカー選手を対象にPAPについて検討した研究が発表されましたので,その論文を紹介します.この研究では,事前の運動にプライオメトリクスとスレッドトーイング(そり引き)を用いています.
文献
The Effects of Physical Fitness on Postactivation Potentiation in Professional Soccer Athletes, J Strength Cond Res, 36(6), 1643-1647, 2022.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32639381/
研究内容
プロサッカー選手を対象に,PAPの効果を体力レベルも考慮し,分析を行っています.
24人のブラジルの男子プロサッカー選手が対象となっています(年齢は18歳~36歳).被験者はプライオメトリクスとスレッドトーイングに慣れていた被験者でした.
体力レベル別にPAPの効果を見るため,事前に行われた体組成,筋パワー,アジリティ,有酸素性能力の測定結果をもとに被験者を体力レベル上位群(上位50%)と下位群(下位50%)に分けています.
【実験の流れ】
5分間W-up
→CMJ(カウンタームーブメントジャンプ)測定 ※ベースライン測定
→コンディショニングアクティビティ(CA) ※PAPを期待した運動
→CAの1分後,3分後,5分後にCMJ測定
※CMJはそれぞれ2回測定
※CAはプライオメトリクス(アンクルホップ15回×2セット,50㎝ハードルホップ5ハードル×3セット)+スレッドトーイング20m×3セット(体重の15%の重り)
結果は以下の通りです.
全体では,CA後のCMJは有意に向上し,1分後3.8%,3分後5.2%,5分後5.7%向上していました. 体力レベル別にみると,上位群は1分後4.8%,3分後6.7%,5分後6.9%向上(全て有意),下位群は1分後2.2%,3分後3.7%,5分後4.2%向上(3分後と5分後は有意)していました. 体力レベルと5分後のCMJの伸び(=ベースラインCMJー5分後CMJ)の関係は,r=0.73で有意でした.
まとめ
・男子プロサッカー選手においても,PAPが認められています.
・また,プロサッカー選手の中でも体力上位群にPAPが明確に現れていたため,体力の高い選手に今回のコンディショニングアクティビティ(CA)がより効果的であったということになります.PAPを上手く引き出すには,サッカー選手においても体力に合ったCAが必要と考えられます.
・サッカーの試合でPAPを上手く活用するとなると,残りの試合時間が短い交代選手には活用できるかもしれません.ウォーミングアップによる疲労をそれほど考えなくてもよく,また,出場後すぐに良いパフォーマンスを発揮する必要があるため,PAPを引き出すようなCAが有用である可能性があります.一方,先発選手に対しては,CAによる疲労を十分考慮し,(導入するのであれば)慎重に導入しなければならないと思います.サッカー選手に対してもPAPを活用できる場面はあると思いますので,PAPのことも頭にいれて,選手個々にあったウォーミングアップを考えていくと良いのではないでしょうか.
文責:松田