サッカーを行うことが健康に良いこと(高血圧,糖尿病,前立腺がんの予防等)は幾つかの研究で明らかになっていますが,一方で,プロサッカー選手においては神経変性疾患(認知機能や運動機能に関する細胞群の脱落.パーキンソン病やアルツハイマー病など)のリスクが高いという報告もあります.
このように,サッカーを行うことの健康への影響は幾つか検討されていますが,プロサッカー選手の死因の特徴を分析した大規模な研究は少なく,十分なエビデンスが揃っているわけではありません.
そこで,最近,フランスの元プロサッカー選手を対象に,47年間のデータを用いて原因別の死亡率を分析した研究が発表されましたので,紹介いたします.
論文
A retrospective analysis of all-cause and cause-specific mortality rates in French male professional footballers, Scand J Med Sci Sports, 2022(Online ahead of print).
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35611613/
研究内容
1968年~2015年の間にフランスの男子プロサッカー選手であった662人と一般のフランス人(年齢や性をマッチングさせています)で死亡率(全死因および原因別)を比較しています.
プロサッカー選手は,フランス生まれであり,1968年~2015年までの間にフランスのプロの試合(一部,二部)に一度でも出場したことがある選手,そして,原因がわかり,既に亡くなっている選手が対象となっています(最終的な分析対象者は662人).
全体の死亡率と原因別の死亡率が比較されました.
フランス人全体と比べて,何倍の死亡率であるかを示すSMR(Standard Mortality Ratios)が算出されました.SMRが1.0を超えれば,フランス人全体よりも死亡率が高いことを意味します.SMRが2.0であれば,サッカー選手の死亡率はフランス人全体の2.0倍であることを示します.
結果は以下の通りです.
数値はSMRの値,*は統計的有意を示します.
全死因の死亡率:0.69*
心臓血管系の疾患:0.82*
悪性新生物(がん):0.67*
認知症:3.38*
神経疾患:0.64
パーキンソン病:0.79
運動ニューロン疾患(ALS:筋萎縮性側索硬化症を含む):1.10
全死因,心臓血管系の疾患,悪性新生物(がん)による死亡率については,プロサッカー選手はフランス人全体よりも有意に低いSMRを示しています.
神経変性疾患では,認知症がSMR3.38でプロサッカー選手はフランス人全体よりも有意に高い値となっています.神経疾患,パーキンソン病,運動ニューロン疾患(ALS:筋萎縮性側索硬化症を含む)は有意ではありませんが,SMRは1.0より低値を示しています.
全死因の死亡率を年代別に分析した結果では,プロサッカー選手は一般の人に比べ,20代~70代まで有意に低いSMRでした.80代と90代では一般の人と差が認められていません.
プロサッカー選手としての年数と全体の死亡率および原因別の死亡率に有意な関係はありませんでした.
まとめ
・フランスの元プロサッカー選手においては,全体の死亡率,心臓血管系や悪性新生物(がん)による死亡率は一般の人より有意に低くなっていました.この点は,サッカーが健康に及ぼす良い影響の一つと思われます.ただ,健康労働者効果(労働者を対象にした調査では,病気によってすでに退職した人や休業している人が含まれないため,一般人よりも健康という結果が出てしまう)があることも理解しておく必要があります.
・神経変性疾患では,認知症による死亡率は一般の人より,有意に高くなっており,SMRは3.4倍となっていました.ヘディングや衝突の多さが認知症に影響しているのではないかと言われていますが,今回の結果との関係はわかりません.
・パーキンソン病やALSを含む運動ニューロン疾患については,元プロサッカー選手と一般の人々で有意な差はありませんでした.ただ,今回の研究ではそれらの該当者が5人以下であり,該当者が少なかったことが影響していると思いますので,今後の更なる研究が必要と思われます.
・また,プロサッカー選手として活躍した年数はいずれの原因の死亡率とも関係がないことが明らかになっています.長くプロサッカー選手を続けたからといって,特定の疾患による死亡率が増えるということはなさそうです.
文責:松田