スプリントの能力を伸ばすために行うトレーニングの一つに負荷(抵抗)を加えてスプリントトレーニングを行うスプリントレジスタンスがあります.このスプリントレジスタンスではハーネスやスレッド(そり)が用いられることが多く,サッカーの現場でも導入している選手やチームも多いと思われます.
このスプリントレジスタンスに関して,最近,サッカー選手を対象に,伸縮性バンドを用いたスプリントレジスタンスの効果を検証した研究が発表されましたので,紹介いたします.
この研究で用いられた伸縮性バンドを用いた弾性抵抗システムは下図の通りです.1本の線で描いていますが,2種類の伸縮性バンド(TheraBand社とDecathlon社)3本を金具で繋ぎ合わせています(詳細は不明ですが,システム自体はおそらく自作と思われます).被験者はこのバンドを腰につけて,スプリントトレーニングを行います.
スレッド(そり)トレーニングとの違いは,今回の伸縮性バンドを用いたトレーニングでは,加速の途中から抵抗が大きくなるという点です.スレッドトレーニングではスレッドが静止している状態から最初に動かす際に最も抵抗が大きくなるため,スプリントの加速の初期局面の能力向上に貢献する可能性が高いと言えます.一方,今回の伸縮性バンドを用いたトレーニングでは,徐々に抵抗が大きくなることから,スプリントの加速の初期局面の能力向上というより,ある程度加速した後の局面(加速の後半局面)のスプリント力を高めることをねらいとしています.
文献
Effects of Repeated Sprint Training With Progressive Elastic Resistance on Sprint Performance and Anterior-Posterior Force Production in Elite Young Soccer Players, J Strength Cond Res, 36(6):1675-1681, 2022.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35622112/
研究内容
U-19の男子エリートサッカー選手7人(介入群)とU-17のサッカー選手8人(対照群)が対象となっています.被験者はプロのサッカーアカデミーに所属する選手でした.
介入群は伸縮性バンドを用いたスプリントトレーニングを8週間で合計10セッション行い,対照群は伸縮性バンドを用いないでスプリントトレーニングを8週間で合計10セッション行っています.介入群と対照群の違いは伸縮性バンドの有無のみで,本数,セット数,休息時間などは全て同じになっています.
トレーニングの1セッションでは,12~14本のスプリントを1セットもしくは2セット行っています.1回のスプリントは4秒で,その後,26秒の休息を挟み,次のスプリントを行います.セット間は3分の休息があります.4秒のスプリントで約15mスプリントすることになっています.
最初のセッションでは,9m地点からスタートし,24m地点までスプリントします.2セッションが終わるごとに,スタート地点を1m前にしていき,最後の2セッションでは,13m地点からスタートし,28m地点までスプリントしています.
※伸縮性バンドの長さは8.3mで,28.5mまで伸縮するようになっています.
30mスプリントのパフォーマンス(スプリットタイムも含む)と機械的パラメータ―(最大パワー,前後方向の力の割合の最大値,最大速度など)が分析されました.
結果は以下の通りです.
・介入群では0-20mのタイムと0-30mのタイムが有意に向上していました.0-20mのタイムは1.8%,0-30mのタイムは2.1%の向上が見られています.0-5m,0-10mにおいては有意差は認められていません. ・また,介入群では,最大パワー,最高速度が有意に向上していました. ・対照群では,いずれの変数も変化がありませんでした.
まとめ
・伸縮性バンドを用いて,負荷を漸増させるトレーニングを行うことで,0-20mタイム,0-30mタイム,最大パワー,最高速度が有意に向上していました.
・スプリントの加速の初期局面ではなく,加速の後半局面を向上させるには今回のようなレジスタンススプリントがサッカー選手にも有効と考えられます.
文責:松田