ジャンプトレーニング(プライオメトリクス)がサッカー選手のフィジカルパフォーマンス向上に貢献するとした研究は多くあり,また,ジャンプトレーニングとレジスタンストレーニングやバランストレーニングを組み合わせると怪我の減少に繋がるといった論文もありますが,ジャンプトレーニング単体がサッカー選手の下肢の怪我に及ぼす影響を検討した研究は多くありません.
そこで,最近,ジャンプトレーニングがサッカー選手の下肢の怪我に及ぼす影響を検討した研究が公表されましたので,紹介いたします.
文献
The effects of jump training on measures of physical performance, lower extremities injury incidence and burden in highly trained male soccer players, Res Sports Med, 2022. Online ahead of print.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35616245/
研究内容
被験者はセミプロの男子プロサッカー選手23人です.
介入群10人(平均年齢22.3歳)と対照群13人(平均年齢21.7歳)にランダムに分けられました.
介入群は普段のサッカートレーニング加え,ジャンプトレーニング(プライオメトリクス)を1セッション25~30分を週1回,16週間(4ヵ月)行いました.
ジャンプトレーニングはボックスへの垂直ジャンプ,水平ジャンプ,着地ジャンプ(※どのようなジャンプなのか,詳細不明.おそらくボックスからの着地と思われます)になります.
フィジカルパフォーマンスとして,カウンタームーブメントジャンプ(CMJ),30mスプリント(10m,20mスプリットタイム含む),方向転換能力(利き脚と非利き脚それぞれでターン)が介入前後で測定されました.
疫学的研究のためのUEFAのガイドラインにそって,介入期間中(16週間)の下肢の怪我が分析されました.
怪我は「トレーニングや試合からの離脱」と定義され,怪我の発生率と怪我の負担(重症度.injury burden)が分析されました.
怪我の発生率はプレー時間(exposure time)あたりの怪我の件数,怪我の負担はプレー時間当たりの競技離脱日数となっています.
結果は以下の通りです.
【フィジカルパフォーマンス】 ・介入群のCMJは介入前より介入後が有意に向上し,介入後においては対照群のCMJより有意に高くなっていました(介入群:5.3%向上,対照群:0.4%向上). ・スプリント,方向転換に関する変数は群間に有意な差はありませんでした. 【怪我】 ・怪我の発生率は介入群2.8,対照群8.9であり,介入群のほうが低値ですが,有意差はありませんでした. ・怪我の負担(重症度)は介入群71.4,対照群194.9であり,有意差が認められました.
まとめ
・ジャンプトレーニング(プライオメトリクス)を行うことにより,CMJのパフォーマンスが向上すると同時に,下肢の怪我の負担(重症度)が減っています.
・下肢の怪我の負担(重症度)減少の理由は明確でありませんが,ジャンプトレーニングの中に着地のトレーニングも含まれていたため,着地衝撃のコントロール能力が向上したことや,ジャンプトレーニングにより筋肥大が促されたことが影響しているかもしれません.
・ジャンプトレーニングに下肢の怪我の予防(重症度低下)を期待しても良いかもしれませんが,今回の研究は,単一のチームが分析対象であること,怪我の分類が不明なこと,怪我の調査期間が4ヵ月であり,短いことなど,研究の限界が幾つかありますので,その他の研究や今後の更なる研究を踏まえて,最終的な判断をしたほうがよさそうです.
・なお,ジャンプトレーニングがスプリントや方向転換能力に良い影響を与えるという研究は多くありますが,今回はジャンプトレーニングによるスプリントや方向転換能力の向上は認められませんでした.既にハイレベルなトレーニングを行っているセミプロのサッカー選手であったため,トレーニングの刺激が十分でなかったこと,それらの能力の向上の余地が少なかったこと等が影響しているかもしれません.
文責:松田