高強度インターバールトレー二ングと筋力トレーニングを組み合わせた高強度ファンクショナルトレーニングが提案され,研究が進められています(高強度レジスタンストレーニングと呼ぶ場合もあります).トレーニングの内容・特性から考えると,サッカー選手にも有用な可能性がありますが,その効果に関するエビデンスは十分ではありません.
最近,サッカー選手を対象に,高強度ファンクショナルトレーニングが身体パフォーマンスやホルモン分泌,抗酸化能力に及ぼす影響を検討した論文が公表されましたので,紹介いたします(この論文では高強度レジスタンストレーニングとなっています).
文献
Effects of High-Intensity Resistance Training on Physical Fitness, Hormonal and Antioxidant Factors: A Randomized Controlled Study Conducted on Young Adult Male Soccer Players, Biology, 11(6):909, 2022.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35741430/
研究内容
イランの2部リーグでプレーするセミプロのサッカー選手18人(年齢20.3歳)が対象となっています.
高強度レジスタンストレーニングを行う介入群9人と対照群9人に分けられました.
介入群は週5回のトレーニングのうち,高強度レジスタンストレーニングを週3回行い,残りの2回はサッカートレーニング(技術・戦術トレーニング)を行いました.対照群はサッカートレーニング(技術・戦術トレーニング)を週5回行いました.
介入期間は8週間です.
高強度レジスタンストレーニングの中身は,①自体重スクワット,②自体重ランジ,③スプリットジャンプ,④スクワットジャンプ,⑤ラダー(アジリティ),⑥ラダー(ジャンプ),⑦自体重プッシュアップ(腕立て),⑧メディシンボールシングルアームプッシュオフ,⑨メディシンボールクロスオーバープッシュアップ, ⑩メディシンボールオーバーヘッドスラムの10種目になります.
各種目10~12回(⑤は10秒),2~3セット,セット間のレスト1分で行われました(論文中の表に示されていますが,理解が困難な部分があります.プログラムに関する説明が少なく,詳細は不明です).
※メディシンボール種目については,以下の内容と思われます.
メディシンボールシングルアームプッシュオフ:一方の手の下にメディシンボールを置き,そこでプッシュアップ.
メディシンボールクロスオーバープッシュアップ:メディシンボールシングルアームプッシュオフと動作は同じであるが,1回行うごとにボールをもう一方の手に移す.
メディシンボールオーバーヘッドスラム:メディシンボールを頭上から叩きつける.
身体パフォーマンスの評価項目は,ヨーヨーテスト(YYIRT),VO2max(ヨーヨーテストから算出),10mスプリント,20mスプリント,30mスプリント,繰り返しスプリント(RAST,35mスプリントを10秒休息挟んで6本),方向転換テスト(アローヘッドテスト)です.
血液検査により,マロンジアルデヒド(MDA,活性酸素代謝物),スーパーオキシドジスムターゼ (SOD,抗酸化酵素)、グルタチオン(GSH,抗酸化物質),成長ホルモン(GH),コルチゾール(ストレスにより増加),テストステロン(男性ホルモン)が測定されました.
※簡単に分類すると,今回の場合,多いと良いと考えられるのは,SOD,GSH,GH,テストステロンであり,少ないと良いと考えられるのが,MDAとコルチゾールです.
結果は以下の通りです.
【身体パフォーマンス】 ・介入後において,YYIRT,VO2max,10mST,20mST,30mST,RAST,CODに有意な群間差が認められ,介入群が対照群より優れていました. ・介入前後の差については,30mSTは介入群にのみ有意差が認められました.その他の項目は両群ともに有意差が認められました. 【ホルモンおよび酸化ストレスマーカー】 ・介入後において,介入群は対照群より,コルチゾールが有意に低値であり,SODとテストステロンが有意に高値となっていました. ・介入前後の差については,MDA,GH,GSHは介入群にのみ有意差が認められました(MDAは低下,GHとGSHは増加).その他の項目は両群ともに有意差が認められました.
まとめ
・8週間,週3回の高強度ファンクショナルトレーニングがセミプロサッカー選手の身体パフォーマンスだけでなく,ホルモン分泌や抗酸化能力にも良好な影響を与えることが明らかになっています.
・上記の研究結果やトレーニングの特性から考えると,高強度ファンクショナルトレーニングはサッカー選手に有用な可能性は高いと思われますが,十分な研究があるとは言えないため,更なるエビデンスの蓄積が必要と思われます.導入する際は種目,回数,セット数,休息時間など,その内容には留意する必要があるでしょう.
文責:松田