#57 イギリス・サッカー選手の相対年齢効果とunderdog hypothesis(負け犬仮説)

エビデンス紹介

相対的な生まれの早さ/遅さが学業やスポーツ成績等にもたらす影響のことを相対年齢効果(Relative Age Effect: RAE)と言います.

プロサッカー選手やエリートサッカー選手には区切りの学年において相対的に生まれの早い人(日本の場合は4月~6月生まれ)が多いことが多数報告されおり,サッカー選手にも相対年齢効果が存在することが明らかになっています.

一方,ラグビーの研究にて,ラグビーのアカデミーに所属する選手の場合,相対的に生まれの遅い選手のほうが最終的にプロのラグビー選手になる確率が高いといった報告も存在しています(McCarthy & Collins, 2014).このように相対的に生まれの遅い選手が最終的に成功を収めるような現象のことを”underdog hypothesis(負け犬仮説)”と言います.

相対的に生まれの遅い選手は若いうちは身体面で不利ですが,それを補うために心理的な部分や戦術的な部分を向上させるため,成熟後においてそれらが有利に働き,最終的な成功を収めるではないかと考えられています.

このunderdog hypothesis についてはサッカー以外の種目で幾つかの報告があります.サッカー選手を対象とした研究はほとんどありませんでしたが,2020年にイギリスのサッカー選手を対象に,underdog hypothesis を検証した論文が公表されました.今回はその論文を紹介いたします.

文献

A longitudinal investigation into the relative age effect in an English professional football club: exploring the ‘underdog hypothesis’, Science and Medicine in Football, 4(2), 2020.
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/24733938.2019.1694169?journalCode=rsmf20

研究内容

目的①:12シーズンに渡るRAEの実態を明らかにすること.
目的②:underdog hypothesis(負け犬仮説)を検証すること

対象者
目的①:イギリスのプロサッカークラブのアカデミーの選手556人(1989年生まれ~2008年生まれ)
目的②:イギリスのプロサッカークラブのアカデミーの選手364人(1989年生まれ~1999年生まれ)

9月がcut-off dateであるため,Q1:9月~11月,Q2:12月~2月,Q3:3月~5月,Q4:6月~8月となります.

結果は以下の通りです.

【RAEの実態】
アカデミーの選手の誕生月の割合はQ1が40.3%,Q2が30.2%,Q3が15.8%,Q4が13.7%であり,イギリス人全体の生まれつき分布に対して有意な偏りがありました.

【プロサッカー選手になった割合(underdog hypothesisの検証)】
アカデミーの選手が18歳時にプロサッカー選手になった割合は,Q1が3.5%(n=5),Q2が7.4%(n=8),Q3が11.1%(n=6),Q4が14.0%(n=8)であり,アカデミー生の生まれつき分布に対して有意な偏りがありました.
まとめ

・まず,イギリスのプロサッカークラブのアカデミーに所属する選手に有意な相対年齢効果が存在することが明らかになっています.Q1とQ2を合わせると約70%ですので,誕生月に大きな偏りがあります.
・また,プロサッカー選手になった割合は,Q4(14.0%)がQ1(3.5%)より大きくなっており,underdog hypothesisがサッカー選手にも当てはまることが明らかになっています.ただ,プロサッカー選手になった人数(対象者)が非常に少ないため,今後の更なる研究が必要と思われます.
・この結果から考えると,相対的に生まれの遅い選手(早生まれの選手)が若い年代の時に選抜チーム等に選ばれていれば,その後の飛躍の可能性は高いというようにも考えられます.相対年齢効果の研究では,相対的に生まれの遅い選手(早生まれの選手)にとってはネガティブな内容が多いですが,今回の研究内容は少しポジティブに受け取れる内容とも思います.

文責:松田

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