#58 若いサッカー選手に対するレジスティッドスプリントトレーニングの効果 ★最新システマティックレビュー

エビデンス紹介

レジスティッドスプリントトレーニング(スプリントレジスタンス)とは,スレッド(そり),ハーネス,ウェイトベストなどの負荷(抵抗)を加えて行うスプリントトレーニングのことです.爆発的な筋力とストライド長の向上が期待できるため,サッカーのトレーニング現場でも活用されていると思われます.

サッカー選手を対象とし,このレジスティッドスプリントトレーニングの効果を検証した研究は幾つかありますが,若い年代のサッカー選手を対象とした研究をまとめたレビューはありませんでした.

最近,若い年代のサッカー選手を対象とし,スレッドもしくはウェイトベストを用いたレジスティッドスプリントトレーニングの効果を検討した研究をまとめたレビューが公表されましたので,紹介いたします.

文献

Effects of Vest and Sled Resisted Sprint Training on Sprint Performance in Young Soccer Players: A Systematic Review and Meta-analysis, J Strength Cond Res, 36(7):2023-2034, 2022.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35510888/

研究内容

若いサッカー選手に対するスレッドあるいはウェイトベストを用いたレジスティッドスプリントトレーニングがスプリント能力向上に有効であるのか,また,重量の負荷は体重の20%未満が良いのか,それ以上が良いのかについて,これまでの研究をレビューし,検証しています.

システマティックレビューの書き方を規定したPRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic reviews and Meta-Analysis)声明に従って,レビューが行われています.

20歳以下のサッカー選手が対象となっていること,スレッドやウェイトベストが用いられていること,4週間以上のトレーニング介入が行われていること,等が論文選出の基準となっています.
最終的に12編の論文が選出されました.

スレッドが用いられた論文の対象者は計156人,ウェイトベストが用いられた論文の対象者は計63人でした.
トレーニング期間は4~8週間,セッション数は12~24回となっています.
抵抗のための重量の負荷は体重の2.5%~55%が用いられています.

スプリント能力は,0~10mのスプリント(加速局面),0~30mのスプリント,30m~40mのスプリント(最大速度局面)について分析されています.

結果は下表の通りです.黄色マーカー箇所は統計的に有意であることを示します.

差の大きさを示す効果量(SMD:standardized mean difference)が算出され,<0.20がtrivial,0.20-0.49がsmall,0.50-0.79がmoderate,≧0.80がlargeと解釈されます.

12編のうち5編は対照群が設けられていましたので,介入群と対照群の比較もしています.対照群は普通のサッカートレーニングをしているのが3編,普通のスプリントトレーニングをしているのが2編でした.

レジスティッドスプリントトレーニングは0~10mスプリント(SMD:-0.41),0~30mスプリント(SMD:-0.36)を有意に向上させています.一方,30m~40mスプリントについては有意な効果は認められていません(SMD:-0.25).

0~10mスプリントにおいて,ウェイトベストの効果量(-0.70)はスレッドの効果量(-0.27)より大きくなっています.
介入群と対照群の比較については,0~10mスプリント,0~30mスプリントともに有意ではありませんでした.

重量の負荷については,体重の20%未満が20%以上より効果量は大きくなっています.

まとめ

・ウェイトベストもしくはスレッドを用いたレジスティッドスプリントトレーニングが若いサッカー選手のスプリント能力向上(0~10mおよび0~30m)に有効であることが明らかになっています.しかし,30m~40m区間のスプリントに対する効果は明確ではありません.
・加速局面のスプリント能力を高めるために,レジスティッドスプリントトレーニングを導入するのは一つの選択肢になると思われます.
・ただ,今回のレビューにおいて,対照群とは有意な差が認められていませんので,どこまで積極的に導入するかは少し慎重に考えても良いと思います(この年代には普通のスプリントトレーニングで良いのかしれません).
・重量の負荷については,体重の20%未満のほうが効果的であることが明らかになっています.重すぎる重量では動作が変化し,怪我の可能性も高まりますので,使用する重量については注意したほうがよいでしょう.

文責:松田

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