#60 メラトニン摂取はサッカー選手のコンディション調整に役立つか? ★最新論文

エビデンス紹介

松果体から分泌されるメラトニンは睡眠に関わるホルモンとして有名ですが,抗酸化作用や抗炎症作用もあるため,コンディション調整にも好影響を与える可能性があると言われています.

サッカー選手を対象に,集中的なトレーニング期間中のメラトニン摂取が選手の身体能力,酸化ストレス,細胞損傷(筋損傷)状態に与える影響を検討した論文が最近公表されましたので,紹介いたします.

文献

Melatonin supplementation alleviates cellular damage and physical performance decline induced by an intensive training period in professional soccer players, PLoS One, 17(9):e0273719, 2022.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36054089/

研究内容

サッカー選手を対象に,集中的なトレーニング期間中のメラトニン摂取が身体能力,酸化ストレス,細胞損傷(筋損傷)状態に及ぼす影響を検討しています.

【方法】
被験者はチュニジアの1部リーグチームに所属する男子プロサッカー選手20人(平均年齢18.8歳).
毎日午後7時に5mg のメラトニンカプセルを摂取する群10人(メラトニン群)とプラセボを摂取する群10人(プラセボ群)に分けられました.

被験者は6日間のトレーニングキャンプ(1日2回のトレーニング)に参加し,食事摂取と睡眠のスケージュールは管理されました.

トレーニング期間の前後に身体能力と安静時の血液サンプルが測定されました.
身体能力はスクワットジャンプ(SJ),カウンタームーブメントジャンプ(CMJ),5ジャンプテスト(5-JT),修正アジリティTテスト(MAT),および20mスプリント(20m-Sp) でした.

酸化ストレス指標は高度酸化タンパク質産物 (AOPP:酸化ストレスレベルの指標) やスーパーオキシドジスムターゼ (SOD:抗酸化酵素)が測定されました.その他,クレアチンキナーゼ (CK:筋損傷の指標),γ-グルタミルトランスフェラーゼ (GGT:肝臓障害の指標),アルカリホスファターゼ (AP:肝機能の指標)、クレアチニン (Cre:腎機能の指標),尿素 (Ur:腎機能の指標),総タンパク質 (TP),総コレステロール (TCh),高密度リポタンパク質(HDL),低密度リポタンパク質(LDL),トリグリセリド(Tg),およびグルコース(Gl)が測定されました.

【結果】   ※メラトニンの効果が現れている箇所に黄色マーカー.
AOPP
・プラセボ群はトレーニング後に有意に増加.
・トレーニング後はメラトニン群がプラセボ群より有意に低値.

メラトニン摂取が高度酸化タンパク質産物の増加(酸化ストレスレベルの増加)を防いでいます

SOD
・メラトニン群はトレーニング後に有意に増加.
・トレーニング後,メラトニン群はプラセボ群より有意に高値.

メラトニン摂取が抗酸化酵素活性を増加させています.

CK,GGT
・CK,GGTともトレーニング後,プラセボ群は有意に増加.
・CKについては,トレーニング後,メラトニン群がプラセボ群より有意に低値.

メラトニン摂取が筋損傷,肝臓の損傷の増加を防いでいます.

AP
・両群ともトレーニング後に有意に増加.

Cre
・プラセボ群のみトレーニング後に有意に増加.

メラトニン摂取により腎機能の低下を防いでいます.

Ur
・両群ともトレーニング後に有意に増加.

TP,TCh,HDL,LDL,Tg,GI
・有意差なし.

SJ,MAT
・両群ともトレーニング後に有意に低下.

CMJ,5JT
・プラセボ群のみトレーニング後に有意に低下.

メラトニン摂取がジャンプ力低下を防いでいます.

20m-SP
・両群ともトレーニング後に有意に低下.
・トレーニング後はメラトニン群がプラセボ群より有意に低値(速いということ).

メラトニン摂取がスプリント低下を防いでいます.

まとめ

・集中的なトレーニング期間中のメラトニン摂取はプロサッカー選手の酸化ストレス,抗酸化状態,および筋肉の損傷に対して有益な効果を発揮すること,腎機能と肝障害のバイオマーカーの増加を防ぐこと,および,短期的な身体能力の低下を軽減することが示されています.
・すなわち,メラトニン摂取により疲労回復が促進され,激しいトレーニングによるパフォーマンス低下を緩和しているということになります.
・サッカー選手の回復促進に役立つサプリメントとしてメラトニンは一つの選択肢になりうると思われます.

文責:松田

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