エビデンスベースドサッカートレーニングが指導者の経験・感覚や慣習をもとに行う従来のサッカートレーニングより優れる点を簡単に言うと,「トレーニングが有効である可能性が高い」ということになります.例えば,しばしば指導者が「私はこのようなトレーニングをしていたので,あなたたちも同じようにしなさい」というようなことがあると思いますが,その場合,そのトレーニングはその指導者自身に効果があったことは間違いないですが,それが選手にも効果があるかは全くわかりません.もしかしたら,全く効果がない可能性もあります.このような指導は,「あなたたちにもこのトレーニングは有効である」とする根拠が何もないのです.
一方,研究によりその効果が実証されているトレーニングはその効果が研究で対象となっている人の背後にある母集団全員に当てはまります.少し専門的な話になりますが,科学的な研究では母集団を想定して,あるトレーニングが有効か否かを明確にするために,研究が行われます.しかし,その母集団全員は人数が多すぎるため,全員を対象に研究を行うことはできません.そこで,母集団を代表する標本(サンプル)を抽出し,その人たちを対象に実験を行います(下図).
例えば,高校生サッカー選手にスクワットジャンプトレーニングがジャンプ力向上に有効か否かを調べたいとすると,高校生サッカー選手全員(母集団)を対象とすることはできません.そこで,高校生サッカー選手を代表とする選手数人(標本)を抽出し,その人たちに被験者として実験に参加してもらいます. そして,科学的な研究では,標本から得られた結果をもとにその結果が母集団にも当てはまるか否かを統計学の手法を用いて,検証します.
従って,科学的な研究で効果が実証されているトレーニングはその効果が母集団全員に当てはまることになります(実際は統計学を用いても,間違う可能性はあります.一般的には5%の間違いがあります.これは研究の限界として目をつぶるしかありません).前述の例の場合,スクワットジャンプトレーニングに効果があると分かった場合,その結果は高校生サッカー選手全員(母集団)にも当てはまるということになります.すなわち,エビデンスベースドサッカートレーニングの場合,「あなたたちにもこのトレーニングは有効である」という根拠が明確になっているのです.
このように,トレーニングが選手に有効であるか否かの確率の違いがエビデンスベースドサッカートレーニングと従来のトレーニングとの大きな違いになります.サッカー選手はフィジカルのトレーニング以外にも戦術,技術,メンタルなど,様々な能力や技術を高める必要があります.それらを全て高めるには多くの時間が必要なため,できるだけ効率的なトレーニングを行う必要があります.効果の有無が明確でないトレーニングをするよりも,効果が現れる可能性が高いトレーニングを行ったほうが練習の効率はあがります.効率的な練習を行うためにもエビデンスベースドサッカートレーニングが重要になります.また,選手に「このトレーニングはこのような能力が上がることが証明されている」という説明をすれば,選手の納得の度合いが増し,トレーニングに対するモチベーションも高まるでしょう.特にフィジカルトレーニングなど,選手にとってやりたくない,辛い練習の時にはこのようなエビデンスに基づいた説明が有効になると思います.
※月刊トレーニングジャーナル2020年11月号に掲載されている内容です.
(文責:松田繁樹)