「#6 なぜエビデンスベースドサッカートレーニングが良いのか」で述べた通り,エビデンスベースドサッカートレーニングは従来のトレーニングより優れる点があるため,今後はもっと活用されなければなりません.しかし,サッカートレーニングを全てエビデンスベベースドサッカートレーニングに置き換えることはできませんし,置き換えるべきというわけではありません.
エビデンスベースドメディシンにおいても,個々の医師の経験とエビデンスベースドメディシンを統合し,最適な治療を選択することが重要と言われています.サッカーにおいても同様です.サッカー指導者の経験や感覚は非常に重要です.サッカーのプレーは感覚で行うことも多くあり,また,サッカーのプレーおよび局面は多様であるため(一つとして同じ場面はない),指導者の経験や感覚でないとわからない点も多々あります.この先,サッカートレーニングに関する研究が盛んに行われたとしても,科学的に解明できない点は多く残るでしょう.
また,前述したように,統計学を利用しても一つの研究において5%は間違うことがあるように,個々の科学的な研究でも様々な研究の限界があります.一つの研究で明らかにできることは限られています.研究が多く行われ,類似した知見が多く集まれば,一定の見解が定まってきますが,それでも不十分な点は残ります.エビデンスベースドサッカートレーニングだけに頼るには限界があり,指導者の経験や感覚もとても重要になるのです.従って,今後はサッカー指導者の経験・感覚や慣習と科学的根拠を統合し,最適なトレーニングを選択し,実施していくことが重要になります(下図).
大切なことは,指導者(あるいは選手)は自身の経験や主観だけに頼らず,エビデンスを含め,できるだけ多くの情報を集め,最も有効とされるトレーニングを追求していく姿勢であると思います.現在,サッカーに関する研究が世界中で行われ,新たな知見が毎日出てきています.科学は日進月歩であるため,以前は正しかったことが今は間違いということはよくあります.指導者(あるいは選手)は競技力向上に繋がる様々な情報に常にアンテナを張っておかなければなりません.そして,収集した情報をもとに論理的な思考により,各選手あるいは各チームに最適なトレーニングを導き出し,実施していくことが必要となります.
※月刊トレーニングジャーナル2020年11月号に掲載されている内容です.
(文責:松田繁樹)