サッカー選手に求められるフィジカルの中の大事な要素にパワーが挙げられます.「日本人サッカー選手にはパワーが足りない」ともよく言われることですが,それではパワーとは何でしょうか.
パワーとは,力学的に言うと,「仕事率(W)」のことです.まず,「仕事量(Nm)」というのが,「力×移動距離」になります.例えば,ベンチプレスで100㎏(力の単位であるニュートン(N)に直すと,100㎏に9.8m/秒/秒をかけて980Nとなります)のバーベルを1m動かした場合,980 N×1m=980Nmとなり,仕事量は980Nmになります.この仕事量を時間で割ったのが「仕事率」になります.100㎏のバーベルを1m動かす仕事を1秒でサッと行えば,980 N×1m÷1s=980Nm/sとなります.これをゆっくりと5秒かけて行えば,980 N×1m÷5s=196Nm/sとなります.1秒で行ったほうが,仕事率(パワー)が高いことになります.すなわち,同じ仕事を短い時間で行えるほうがパワーは高いということになります(図1)(長谷川(2009)1)が大変わかりやすいので,そちらもご参照ください).
パワー(仕事率)は「仕事量÷時間」です.「仕事量=力×移動距離」ですので,これをパワーの式の仕事量に代入すると,パワーは「力×移動距離÷時間」となります.「移動距離÷時間」は「速度」ですので,パワーは「力×速度」ということになります.すなわち,パワーは力と速度を掛け合わせたものであるため,パワーを向上させるのであれば,力と速度の両面を向上させていく必要があるということになります.
パワーについて,サッカーにあてはめて考えてみます.サッカー選手は相手選手とボール際で競り合うことが多くあります.この時,相手選手をゆっくり押す時間はありません.相手選手を一瞬で押して,自分の良い体勢を維持する必要があります.つまり,一瞬で大きな力を発揮するパワーが必要となります.
例えば,世界屈指のストライカーであるルイス・スアレス選手(ウルグアイ)は高いパワーを発揮して,相手を一瞬で押して,自分に有利な体勢に持っていきます.身体の使い方の上手さもありますが,パワー発揮能力に優れているので,多くのゴールをあげることができています.パワー発揮能力が高くなければ,自分に有利な状況にもっていけず,多くのゴールを生むことはできないでしょう.
日本人選手でもボール際の競り合いに強く,相手を抑えながらのボールキープが抜群に優れていた元代表の中田英寿選手も相手選手を一瞬で押して,良い体勢を維持し,ボールキープをしていました(両選手の映像を見ていただければわかると思います).競技レベルが高くなるにつれて,身体接触が増えるサッカーにおいて,世界のトップレベルで戦うには高いパワーが必要となるのです.
また,サッカーにおいては,スプリント能力も重要となります.相手より速く走ることができれば,様々な場面で有利になることは間違いありません.スプリント能力にもパワーが関わってきます.スプリント時は,一瞬で大きな力を発揮し,足裏で地面を蹴り,自身の身体を移動させなければなりません.陸上競技選手がスプリント中に地面を蹴る時間は0.1~0.2秒と言われています.ゆっくり時間をかけて力を発揮している時間はありません.速く走るためにも大きな力を短時間で発揮する必要があります.ジャンプや方向転換動作においても同様なことが言え,高くジャンプしたり,素早く方向転換を行うには一瞬で地面を強く蹴らなければなりません.競り合い,スプリント,ジャンプ,方向転換動作を頻繁に行うサッカー選手には様々な場面で「パワー」が必要となります.
文献
1) 長谷川裕(2009)アスリートとして知っておきたいスポーツ動作と身体のしくみ,ナツメ社,pp.102-103.
※月刊トレーニングジャーナル2020年12月号に掲載されている内容です.
(文責:松田繁樹)