ここでは,サッカー選手が行うパワートレーニング(プライオメトリクス)の位置づけについて説明したいと思います.
サッカー選手の筋力トレーニングからパフォーマンスアップに繋がるまでのおおよその流れは下図のようになります.筋力トレーニングは主に筋肉を肥大させ,筋力を高めるためのものであるため,筋力トレーニングだけではサッカーのパフォーマンスアップにはつながらないこともあり,不十分です.筋力トレーニングで向上した筋力を競技で活用できるパワーに変換するため,パワートレーニングと組み合わせる必要があります.
パワートレーニングにはプライオメトリクスの他に,バリスティックトレーニング(通常の筋トレより軽めの重量で素早く爆発的に力発揮するトレーニング)やクイックリフト(クリーンやスナッチといった重量挙げの動作の一部を行うトレーニング)などがあります.パワートレーニングにより,素早く力を立ち上げたり,筋肉や腱の弾性力を上手く使う能力を高めることができるようになり,大きなパワーを発揮できるようになります.
パワートレーニングによりスプリント,ジャンプ,方向転換動作,身体の競り合いなど,サッカー選手に必要な能力を高めることができます.すなわち,パワートレーニング(プライオメトリクス)は筋力トレーニングとパフォーマンスアップとのつなぎ役になり,サッカー選手にとって非常に重要なトレーニングとなります.
また,筋力トレーニングおよびパワートレーニングに組み合わせて,サッカーのスキルトレーニングも必要になります.スキルトレーニングで実際のサッカーの動きを行うことにより,筋と筋とのコーディネーション(協調性)が高まるため,筋力トレーニングおよびパワートレーニングで向上させた筋力とパワーがサッカーの技術や動きに活かされ,パフォーマンス向上に繋がります.
シンプルに考えた場合になりますが,二つの例を示します.下図では,筋力トレーニングのスクワットで高めた下半身の筋力をプライオメトリクスの垂直ジャンプでジャンプ力アップに繋げます.そして,ジャンプヘディングの練習を行うことにより,向上した筋力やパワーを活かしながら,ヘディングジャンプのタイミングや連動した全身の動きを習得し,サッカーのパフォーマンスアップに繋げます.
下図では,筋力トレーニングのベンチプレスで高めた上半身の筋力をプライオメトリクスのプッシュアップジャンプ(腕立てジャンプ)で上半身の爆発的なパワー発揮に繋げます.そして,ボール際の競り合いの場面が多い1対1の練習を行うことにより,向上した上半身の筋力とパワーを活かしながら,競技中の上半身のパワー発揮のタイミングや身体の使い方を覚え,パフォーマンスアップに繋げます.サッカーの技術や動きは複雑ですので,この例ほど単純ではないですが,パフォーマンスアップまでの基本的な流れは理解しておくとよいと思います.
※月刊トレーニングジャーナル2020年12月号に掲載された内容を一部修正しています.
(文責:松田繁樹)