時折ですが,「筋力トレーニングをしたら,サッカーの競技パフォーマンスが落ちた.筋力トレーニングはしないほうよい」というようなことを耳にすることがあります.「筋力トレーニングをしたら,競技パフォーマンスが落ちた」については,様々な要因があると思いますが,前回のコラム(#11 パワートレーニング(プライオメトリクス)の位置づけ)に示したパフォーマンスアップまでの流れを理解していないことが一つの要因に挙げられると思います.
筋力トレーニングは,サッカーの技術的な要素を排除し,筋力を集中的に向上させるために行っているものであるため,筋力トレーニングをしたからと言って,キックやドリブルなどのサッカーの技術が高まるわけではありません.サッカーには技術的な要素が競技パフォーマンスに大きく影響するため,筋力トレーニングを多く行い,その代わりに,技術練習を怠ったり,技術練習の時間が短くなれば,総合的な競技パフォーマンスは低下するでしょう.また,身につけた筋力をもとにパワー向上を目指すパワートレーニングをしなければ,サッカーのパフォーマンスアップには繋がらないでしょう.前回のコラムに示したパフォーマンスアップまでの流れが重要になります.
日本サッカー界ではこれまで,パワートレーニングが注目されることは少なかったため,「パワートレーニングをしたら,競技パフォーマンスが落ちた」という話を聞く機会はほとんどないのですが,今後パワートレーニングが普及すれば,前述のような話が出てくるかもしれません.この場合も筋力トレーニングの場合と同様です.パワートレーニングはパワーアップを目指しており,サッカーの技術向上には役立たないこと,サッカーのスキルトレーニングを同時に多く行う必要があることを理解しておかなければなりません.
「筋力トレーニングをしたら,競技パフォーマンスが落ちた」や「パワートレーニングをしたら競技パフォーマンスが落ちた」という話は,競技レベルがそれほど高くない場合にも出てくる可能性があります.選手がコンタクトプレーを強化しようと筋力およびパワートレーニングを行っても,競技レベルがそれほど高くない場合は身体接触の機会が少ないため,その効果を実感しにくくなる可能性があります.
しかし,世界のトップレベルで戦うにはフィジカル強化は欠かせません.例えば,ある高校生サッカー選手が筋力トレーニングやパワートレーニングを行い,その成果がパフォーマンスに繋がらなかったとしても,その選手が世界のトップレベルを目指すのであれば,継続してそれらのトレーニングに取り組む必要があるでしょう.高校生同士の試合では活かされなくても,今後レベルが高くなった場合にそれらの成果が現れてくるはずです.成果が現れてないからと言って,それらのトレーニングを止めてしまうと,筋力やパワーの基礎がないまま,高いレベルに入っていくこととなり,高いレベルで通用しないことや,慌ててそれらのトレーニングを行うことで怪我やパフォーマンス低下に繋がる可能性もあります.世界トップレベルで戦う選手を育成するのであれば,フィジカルトレーニングに対しては長期的な視点が必要でしょう.
※月刊トレーニングジャーナル2020年12月号に掲載された内容を一部修正しています.
(文責:松田繁樹)