HQ比とは
HQ比というのはHamstring-to-Quadricepsの略で,ハムストリングの筋力÷大腿四頭筋の筋力で求められます.HQ比が低い値であると,ハムストリングと大腿四頭筋の筋力のバランスが悪く,ハムストリングの肉離れに繋がるとも報告されています(コラム#17).
HQ比には以下の2種類あります.
①conventional HQ比:古くから用いられていたHQ比(1960年代~).コンセントリックのハムストリング筋力÷コンセントリックの大腿四頭筋筋力で求められます.
②functional HQ比:比較的新しいHQ比(1980年代後半~).エクセントリックのハムストリング筋力÷コンセントリックな大腿四頭筋筋力で求められます.
※コンセントリック収縮(短縮性収縮):筋肉が縮みながら筋発揮
※エキセントリック収縮(伸張性収縮):筋肉が伸ばされながら筋発揮
以前はconvetional HQ比が主に用いられていましたが,ハムストリングの肉離れがエキセントリック収縮時に起こることが多いため,functional HQ比も重要視されるようになってきました.HQ比にはカットオフ値(適正か否かを区切る値)が示されており,conventional HQ比は60%,functional HQ比は100%がカットオフ値として利用されることが多くなっています.サッカー選手のHQ比を報告した研究は多くありますが,それぞれの研究で実験方法・プロトコル(実験計画)が異なるため,プロサッカー選手にも前述のカットオフ値が当てはまるかどうかはよくわかっていませんでした.
文献
以下のレビュー論文ではプロサッカー選手のHQ比がどれくらいであるか,カットオフ値が適切であるかを明らかにするため,プロサッカー選手のHQ比を検討したこれまでの研究をまとめています.
Baroni BM et al., Hamstring-to-Quadriceps Torque Ratios of Professional Male Soccer Players: A Systematic Review, J Strength Cond Res, 34(1),281-293, 2020.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29794893/
研究内容
この研究では,幾つかの論文データベースから適格基準や除外基準を基にレビューに値する論文を抽出しています.その結果,最終的に30編(合計1727人)の文献が抽出されました.内訳はconventional HQ比については27編(1274人),functional HQ比については15編(1082人)となっています.対象者は各国の1部・2部リーグに所属する選手であり,筋力測定方法として等速性の筋力測定を用いている文献のみが抽出されています.
結果としては,
conventional HQ比は以下のような値となっていました.
低速度(12~60°/s):50~83%
中速度(90~180°/s):51~80%
高速度(240~500°/s):50~89%
functional HQ比は以下のようになっていました(カットオフ値:100).
低速度(30°/s):全てカットオフ値以下(5編)
低速度(60°/s):14編/16編がカットオフ値以下
中速度(120°/s):2編/6編はカットオフ値以下,2編/6編はカットオフ値以上.2編/6編はカットオフ値付近.
高速度(180~300°/s):全てCI(信頼区間)がカットオフ値より大きいかカットオフ値以上(8編)
論文の著者が対象となった30編の研究のHQ比の平均値を算出しています.以下の図の通りです(論文データより筆者作成).
この研究の結論としては以下のことが述べられています.
・等速性筋力テストのHQ比においては,プロサッカー選手は伝統的に使われているランドマーク(カットオフ値)を満たしていない.
・等速性筋力テストの各速度別の指標が必要である.
・臨床医やコーチングスタッフがHQ比を用いるのであれば,conventional HQ比の場合,低~中速度(12~180°/s)なら60%,高速度(240~360°/s)なら70~80%を想定するのがよい.
・臨床医やコーチングスタッフがHQ比を用いるのであれば,functional HQ比の場合,60°/sなら80%,中速度~高速度(120~300°)なら100~130%を想定するのがよい.
・HQ比についてはまだまだ議論がある.
まとめ
・HQ比は「60」という値をよく聞きますが,角速度によりHQ比は異なることが明らかになっています.角速度が上がるにつれて,HQ比も高くなるというのはこのレビューでもある程度示され,その他の先行研究でも示されているようです.
.等速性筋力測定器でHQ比を測定できる現場は少ないと思いますが,もしHQ比を現場で利用することがあれば,結論に示された点は理解しておいたほうがよいでしょう.
※第6回勉強会(2022年3月30日)にて議論した内容です.
文責:松田