ハムストリング損傷はサッカー選手にとって深刻な怪我です.ハムストリング損傷が起こると,しばらく練習ができなり,競技パフォーマンスが落ちてしまうことから,サッカー選手は気をつけなければなりません.競技復帰後1年以内の再発リスクも高い(12~41%)と報告されています.
サッカー選手はハムストリング損傷を予防することが大事になりますが,リスク要因は何になるのでしょうか.年齢,ハムストリングの低筋力,大腿四頭筋の低筋力,低いHQ比(※),ハムストリングの筋線維長や筋力の左右差などが報告されていますが,結果は一致しているわけではなく,まだまだ議論の的となっています.
※HQ比:ハムストリングの筋力÷大腿四頭筋の筋力
プロサッカー選手を対象に,ハムストリング損傷のリスク要因を検討した前向き研究(2018年)がありますので,紹介します.
Eccentric hamstring strength deficit and poor hamstring-to-quadriceps ratio are risk factors for hamstring strain injury in football: A prospective study of 146 professional players, J Sci Med Sport, 21(8), 789-793,2018.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29233665/
研究内容
この研究では,169人のプロサッカー選手(国のトップリーグ)を対象に,シーズン前の等速性筋力がその後10ヵ月のシーズン中のハムストリング損傷の予測となるかを調査しています(脱落者がいたため,最終的な人数は146人).
等速性筋力の測定にはBiodex Ⅲが利用されています.利き脚と非利き脚とも,ハムストリングと大腿四頭筋のコンセントリック筋力(60°/s,240°/s)とハムストリングのエクセントリック筋力(30°/s)が測定されました.
結果として,シーズンで41件の急性ハムストリング損傷が起こり,そのうち5件(12%)は再発でした.怪我した選手(41人)と怪我しなかった選手(105人)では以下の項目に有意差が見られています.大腿四頭筋の筋力には差が見られていません.
・ハムストリング筋力(コンセントリック60°/s,240°/s,エクセントリック30°/s) ※絶対値と体重で割った相対値とも有意差あり.
・HQ比(コンセントリック・エキセントリックとも60°/sの時,240°/sの時,エキセントリック30°/s・コンセントリック240°の時)
そして,ハムストリング損傷歴,ハムストリングのエキセントリック筋力(30°/s),HQ比(コンセントリック60°/s)を使用して,ロジスティク回帰分析を行っています.
その結果,オッズ比(※)は以下の通りとなっており,三つの要因ともリスク要因として有意となっていました.
ハムストリング損傷歴:3.6
ハムストリングのエキセントリック筋力(体重当たり2.40以下):5.6
HQ比(50.5%以下):3.1
※オッズ比:ハムストリング損傷が起こる確率÷ハムストリング損傷が起きない確率.ロジスティック回帰分析により算出され,この数値によりそれぞれの要因の影響度を見ることができます.今回は最も高い値であったハムストリングのエキセントリック筋力がハムストリング損傷に最も影響すると考えられます.
結論としては,プロサッカー選手の低い等速性ハムストリング筋力,低いHQ比,ハムストリング損傷歴が急性ハムストリング損傷と関連するとされています.
まとめ
・プロサッカー選手においては,ハムストリング損傷歴,低いハムストリングの筋力(特にエキセントリック),低いHQ比がリスク要因になっているようです.
・ハムストリング損傷歴がある人は再発には特に注意する必要がありますし,ハムストリングの筋力はノルディックハムストリングエクササイズなどを用いて,強化していく必要があるでしょう(コラム#4をご参照ください).
文責:松田