サッカー選手の怪我に関する疫学的な研究は幾つもありますが,ヨーロッパリーグの選手を対象としているものが多く,アメリカおよびカナダのプロサッカーリーグであるメジャーリーグサッカー(MLS)の選手を対象とした研究はほとんどありませんでした(1996年のメジャーリーグサッカー開幕年を調査した1編のみ).
そこで,2014年~2019年の6年間のメジャーリーグサッカーにおける怪我の実態を報告した研究が最近発表されたので,紹介します.
メジャーリーグサッカーでは怪我の実態把握や予防プログラム作成のために,2010年からリーグ全体の怪我についてデータベース(Health Athlete database)を構築しているため,長期間に渡る全ての怪我がデータとして蓄積されています.プロサッカー選手の怪我を長期間に渡り,かつ,リーグに所属する全てのチームから得た情報を基に分析した研究はほとんどないため,価値ある研究と考えられます.
文献
Incidence of Injury for Professional Soccer Players in the United States: A 6-Year Prospective Study of Major League Soccer, Orthop J Sports Med, 24;10(3), 2022.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35360881/
研究内容
この研究では,2014年~2019年のメジャーリーグサッカーにおける怪我の実態を報告しています.怪我の定義は「治療の必要な怪我」とし,前述のデータベースに登録された全てが対象となっています.
主な結果は以下の通りです(図は論文データより筆者作成).
・2014年~2019年で9713件の怪我が発生. ※除外基準に合致した怪我(1901件)は除外している
・計算では,1選手が1シーズンで1.1回の怪我をすることになる.
・ポジション別の怪我の件数はMF,DF,FW,GKの順で多い(下図).
・怪我の部位は大腿部(30.8%),膝(13.5%),足関節(12.5%)の順(下図).
・最も多い怪我はハムストリング損傷(12.3%),続いて,足関節捻挫(8.5%),内転筋痛(7.6%)(下図).
・怪我でプレーできない時間は平均15.8日.44.2%の怪我は離脱日数はゼロ.
・トレーニングできない期間が最も長いのは下腿部骨折(平均120.9日).
・怪我は試合中が練習中より4.1倍多い.
・2014年~2019年にかけて,試合やトレーニングの時間は増えているものの怪我は減っている(下図).
まとめ
・MLSプロサッカー選手は年1回は治療が必要な怪我をしてしまい,プレーできなくなる日数は平均15.8日ということです.
・サッカー選手にとって約半月練習できないとなると個人にとってもチームにとっても大きな痛手となります.当然のことですが,怪我予防は非常に重要ですので,怪我の実態(どの部位にどのような怪我多いのかなど)を理解したうえで,適切な対策をとることが重要です.
・サッカー選手に最も多いハムストリング損傷については,その対策が多くの研究で検討されていますので(コラム#4),エビデンスを基にした対策をとるとよいと思われます.
・ポジションについてはMF,DFの件数が多くなっていますが,MFやDFが特に怪我をしやすいというわけでないと思います.元々MF,DF登録の選手はFWよりも多いため,このような結果になったのではないかと考えています(4-4-2システムなどが多いと思いますので).いずれのポジションの選手も同程度に怪我対策は重要になると考えたほうがよいと思います.
文責:松田